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「私が川上くんに告白した日のことです」

彼女が語り始めたのは、当然と言えば当然に、あの日の話。
まあ、俺と彼女がここで語らう理由があるとするならばその話に限られる。

彼女は当時、俺と付き合おうなんて本当に微塵も思っていなかったらしいのだ。未来ある後輩の俺に恋人がいる状態が、いかに枷になるか考えてのことらしい。
俺が気になっていた、彼女の悲しそうに見えた表情の原因はどうやらこれだ。

俺はそんなにうまく出来ないように見えるのか、とかなんとか。抗議のために言おうとしたが、どうにもそんなことが言える雰囲気ではなかったので一旦黙って続きに耳を傾ける。

それから彼女は俺と過ごすうちに、何度か未来のことを夢に見るようになったらしかった。それは決まって未明。いつかのあの日と同じような時間帯で、自分でも相当に参っているのがわかってはいたらしい。

「川上くんはさあ、優秀だから。どんなふうに進むにしたって、伊沢くんのところで、きっと大活躍するんだよね。君らはもっと大きくなるから、それに伴って私みたいな小さな存在でも活動の妨げになっちゃうと思う」

「だから、夢を見る度に、本当に邪魔になる前に…って、何度も思ったんだけど」

直接言葉にされることはかなかったが、それはつまり、別れたいということを意図しているようだった。
それが彼女の優しさであって、本心でないのは十二分に分かる。自惚れかと思うかもしれないが、彼女はそれを自覚せざるを得ないほどに、日々愛を注ぐのだ。
だからこそ俺は、どうしたって許せなかった。

勝手に好きにさせておいて、卑怯だと思う。

「…Aさんは、別れたいって、思ってるんですか」

彼女の話も半ばに、気が付けば不満を含ませたような声色で訊ねていた。

当時であればまだ彼女のことをこんなにも大事に思う自分はいなかったのだから、苦しまずに済んだだろう。
けれども、今は訳が違う。俺は彼女が好きで、きっと、彼女もそうなのだ。

「そういうんじゃ、」
「じゃあ、いいでしょ。それで」

俺は、こんなにもわかりやすく感情を露わにするような性格だったろうか。言い放った口のまま、視線は公園内の何処とも言えぬところへ。変な沈黙が流れて、耳が痛くなりそうだった。
そんな俺の方を、彼女は熱心に見つめているよらしい。何の心理が働いたか全くもって彼女のほうを見ることは叶わないが、恐らくそうであろうということは、視界の端で少しも動かない肩を見てわかった。

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ぶっく。(プロフ) - どの作品も本当に素敵で、すべての話で心を動かされました!文章がとても綺麗……!最高の7名がそれぞれちがう時間を軸にした物語を展開されていて、本当にそれぞれちがう良さがありました。読んでいてとてもとても楽しかったです!ありがとうございました! (2020年4月8日 4時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
餅兎(プロフ) - 神作者の皆様、執筆お疲れ様でした!どれもこれも素敵な作品で、一つ更新される度に胸を躍らせていました。本当に素晴らしい作品を有難う御座いました…!! (2020年4月8日 0時) (レス) id: 10f5dc34bc (このIDを非表示/違反報告)
還元(プロフ) - いろさん» 読んでいただきありがとうございます。この後もまだまだ素晴らしい作品が続きますので、どうぞ最後までお付き合いください!コメントもありがとうございました! (2020年4月4日 1時) (レス) id: 0ea79b5d61 (このIDを非表示/違反報告)
はるむにに(プロフ) - 神々の集まりですね、、本当すごいです(語彙力)次のお話も楽しみにしております! (2020年4月1日 22時) (レス) id: 33dd96b3e7 (このIDを非表示/違反報告)
いろ(プロフ) - なんと…凄い神々が集まって作品をお造りになられたのですね、一話目から凄かったです。皆さんの見れるなんて…最高です。ありがとうございます。 (2020年4月1日 20時) (レス) id: 5fbef9d1c0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:830 x他5人 | 作者ホームページ:   
作成日時:2020年3月29日 15時

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