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だから、今彼が甘いものを変わらず好きかどうかなど分かりようが無いように、
彼が私のことを今も尚、好きかどうかなんて到底分かりっこない。
彼のことは、いくら私が推測しようが彼に聞かなきゃ分からない。
知らない。彼のこと、知らない。
でも、知りたい。
何事も歩み寄らなければ始まらないでしょう?
この場合も、例外なんかじゃないって信じているから。
「急にどうしたの?誰かから貰ったの?」
諦めたように立ち上がった姿を見てひとまずホッとする。食べてくれるようだ。
テーブルを挟んで、向かい側。
椅子に座り、私がテーブルに置いたスモアを不思議そうに眺めた。
考えれば、確かに急な話だ。
何か不自然ではない理由が無いか脳内で思考を駆け巡らせる。
見慣れた部屋を見渡せば、壁にかけられた時計が目に入る。
なんて微妙な時間だろう。
皮肉にも時計の針は午前10時ぴったりをさしており、
言い訳なんて1つしか思い浮かばなかった。
『…10時の、おやつだよ』
このやや張り詰めた空気には似つかわしくない幼い言葉を発してしまい、後悔する。
いやいや、私は何を言ってるんだ。
彼が目の前で吹き出す。
「何それ。久しぶりに聞いたわ。」
私の、ただただ苦しい言い訳に、
正面に座ったよしくんは笑った。
笑った顔は、誰よりも素敵で。
私の求めているよしくんのような気がして。
目の前で目を細めながらスモアを食べる彼を見る。
ねぇ、やっぱり、好きだよ。
甘い香りが充満した部屋に、陽が差し込むカーテン。
10時のおやつ。そして、私とよしくん。
何一つ欠けたものなど無いはずなのに、
心はずっと寂しいまま。
「おいしい」
『ほんと?良かった。』
笑いかけてくれた彼に何故かそっけない言葉を返す。
もっと気の利いた返事はできないのか。
でも、
"ずっと相手をしてくれなくて寂しいよ"だとか、
"久しぶりに2人でゆっくり過ごせるね"だとか、
"よしくんは、私のこと好き?"だとかいう、
愛に飢えた、乞食のような言葉は言えない。
舌も、声帯も、動かない。
言葉にしたら取り返しがつかなくなる。
そんな気がしてしまうから。
私が黙ったことで、彼も口を閉ざしてしまい、
大人2人が10時のおやつを黙々と食べるという
なんとも不思議な光景が広がっている。
そんな沈黙の中、何か言いたげに私のことを見つめる視線に気づき、
私が先に沈黙を破った。
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ぶっく。(プロフ) - どの作品も本当に素敵で、すべての話で心を動かされました!文章がとても綺麗……!最高の7名がそれぞれちがう時間を軸にした物語を展開されていて、本当にそれぞれちがう良さがありました。読んでいてとてもとても楽しかったです!ありがとうございました! (2020年4月8日 4時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
餅兎(プロフ) - 神作者の皆様、執筆お疲れ様でした!どれもこれも素敵な作品で、一つ更新される度に胸を躍らせていました。本当に素晴らしい作品を有難う御座いました…!! (2020年4月8日 0時) (レス) id: 10f5dc34bc (このIDを非表示/違反報告)
還元(プロフ) - いろさん» 読んでいただきありがとうございます。この後もまだまだ素晴らしい作品が続きますので、どうぞ最後までお付き合いください!コメントもありがとうございました! (2020年4月4日 1時) (レス) id: 0ea79b5d61 (このIDを非表示/違反報告)
はるむにに(プロフ) - 神々の集まりですね、、本当すごいです(語彙力)次のお話も楽しみにしております! (2020年4月1日 22時) (レス) id: 33dd96b3e7 (このIDを非表示/違反報告)
いろ(プロフ) - なんと…凄い神々が集まって作品をお造りになられたのですね、一話目から凄かったです。皆さんの見れるなんて…最高です。ありがとうございます。 (2020年4月1日 20時) (レス) id: 5fbef9d1c0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:830 x他5人 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年3月29日 15時