na/ドーナツ ページ6
それは平凡で平穏な日曜日の昼下がり、急に始まった。同棲中の恋人の発言から始まったあまりにも突発的なクッキング。慣れ親しんだ厨房が、なんだか魔法にかかったように違って見えた。不思議とキラキラしているのだ。
まぁ一番キラキラしているのは、隣にいる彼なのだけど。
「Nakamu、次何するの？」
「あー、Aにやってもらうこと今はないかも」
「そうなの？じゃあ休んでこようかな」
「もうあと仕上げだけだし、出来たら呼ぶね」
顔に粉をつけていても、私の恋人は顔がいい。私のほうを振り向いてにぱっと笑う彼。その顔はどこかあどけないというかかわいいというかなんというか。整っている、とも言えるけれど、“いい”という表現が一番しっくりくるのである。
そんな彼の顔を拝みつつ、私も粉まみれになった自分の手を洗い、エプロンを洗濯機に突っ込んで、リビングに戻る。テレビが一番よく見える正面のソファーの真ん中を陣取って、おもむろに電源をつければ、高い声の女性キャスターが興奮気味に何かを話し始めた。お菓子がどうとかプレゼントがどうとか、うーん、よく聞きとれないや。
疲れてしまったのだろうか。睡魔に打ち勝つことができず、私の意識はゆっくりと闇に沈んでいった。
「……て、…き…、起きて、起きてA！できたよ！」
Ｎakamuに肩を揺さぶられ、ぼんやりと霧がかったような思考が晴れていく。目の前には相変わらずキラキラした恋人の顔。非常に眩しい。
「ずっと立ってたから疲れちゃったか。しょうがないよね、ごめんね。でもどうしてもあったかいうちに食べてほしくてさ、」
「いいよいいよ、気にしないで。ところで…今更なんだけどさ、なんで今日ドーナツ？」
私たちが作っていたのは、揚げ菓子でありながら中はふわっとしていて、形が特徴的な大人気お菓子、ドーナツである。私もNakamuも甘いものが大好きで、月に一回はケーキバイキングに行くような超甘党だ。そして、何故かNakamuが急に、今日ドーナツを作りたいと言い出したのだ。
揚げたてほかほかのドーナツを眺めながら、疑問に思っていたことを尋ねる。Nakamuはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりににんまりと笑う。
「今日は二月十四日だよ？」
「…あ」
先ほどの女性キャスターの上ずった声はそれによるものか。しかしなぜ男であるNakamuから？それもなんでドーナツを？
「わかんないみたいだからヒントあげる。その一、アメリカ式。その二、ドーナツの意味」
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作者名：赤雪 | 作成日時：2021年4月26日 15時
