br/濃霧警報(シリアス強め) ページ4
仕事から帰ってくると、いつもならば空のはずのポストに何かが投函されていた。B5の大学ノートより少し大きいぐらいのその荷物は、大きさにしてはやけに軽かった。本の重さではない。何か頼んだだろうか、と、若干訝しげに思いながらリビングのソファーに腰を下ろし袋を開ければ、中には段ボールに密着させる形で梱包された、私の手のひらぐらいの大きさの金色のメダルが入っていた。 ずっしりと重いそのメダルには、狐のようなしっぽが付いた不思議な形の生き物が描かれていて、生き物の周りに色とりどりの立方体が浮かんでいる。赤、水色、黄色、緑、紫、青。
いったいこれは何だろう。
どこかで見たような気がするけど、どこだったのか思い出せない。この色にも覚えがあるけど、なんの色だったっけ。メダルを守る透明なケースの、メダルの周りに詰まった緩衝材の上に重ねるように、文字が書いてある。
『5th Anniversary』
「…ホワイト……テールズ…?」
これにも覚えがある。この名前を知ってる。この読み方が、本当はホワイトテールズではないこともないことも知ってる。本当になんとなくだ。正しい読み方で読まなかったのは。読んでしまったら、何かが壊れてしまうような気がした。私の中の、何かが。
「A、それ、何?」
「あ、なんかポストに入ってて…」
「僕のかも。見して」
「はい。なんかどっかで見たことある気がするんだけど」
旦那が、私が帰ってきたことに気づいて奥の部屋から姿を現した。旦那はゲームクリエイターで、基本家にいるのだ。手が付けられないほど様々な方向に飛び跳ねる茶髪を片手で撫でつけながら、青い瞳の彼は私に向かってもう片方の手を差し出す。結婚してもう10年近くなる旦那の手のひらにメダルを押し付けるように置くと、旦那の顔色が変わった。
「なんでいま、これが」
「何かわかる?ぶるー……?あれ、Broooockって、…あれ?」
知らない単語が口から飛び出した。
ぶるーく。Broooock。
知らない、知らない、知らない。違う、思い出したくない。
「思い出さなくていい、いいよA」
「…?」
「もうずっと前の話だから。いいよ。これは捨てよう、ね?」
優しく抱きしめられて、頭の中にまたもやがかかる。これでいいと、私の中の私も言う。何も思い出す必要はない。このままでいい。
そういえば“彼ら”の動画は、もう何年も、更新されていない。
濃さを増していくもやの中に、“六人”の後ろ姿を見た。
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作者名:赤雪 | 作成日時:2021年4月26日 15時