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政府の発表は、世界を混乱に陥れた。そう、他の星への逃避は一時的なものに過ぎず、またその星で生きていける可能性などゼロパーセントに近いからだ。宇宙船は食料等の都合上1か月までしか宇宙空間を漂うことができなく、その間に移動先が見つからなかった場合一斉冷凍でみんなそのまま死んでしまうのが条件だ、と添え書きがされていた
「河村はどうしたい?」
「…僕は、福良さんに任せるよ」
「ちゃんと言って」
「福良さんこそ」
二人の間に冷たい空気が流れた。彼は依然として目を合わせてくれないことが余計辛さを増大させた
「俺は、地球で最後を迎えたいなと思ってる。これから宇宙船に乗ってうまく他の星へ辿り着けたとして、俺達は生き残ることは出来ないんだよ」
地球の気温や水、大気、全てが奇跡のように存在しているからこそ俺達は今生きていられるのに。もし宇宙船に乗ったところであと1ヶ月、もしくは1年ほど寿命が伸びたとしても窮屈な宇宙船の中で最後を迎えることになるなんて考えるだけで恐ろしかった
「僕は、分からない。愛する人に、少しでも長く生きてて欲しいと願うのが『愛』なのではないか、それなら僕が福良さんに抱く感情が何なのか、分からなくなる」
ごめん、ちょっと考えさせてと彼は部屋に行ってしまった。しかたなく俺は1人でベランダに出た。ネットニュースを見ると、宇宙船の乗車を希望する人は約9割らしい、という見出しが目に飛び込んできた
俺は、やはり社会から外れているのだろうか、と中学生の時に同級生から言われた悪口を思い出して少し下を向いた
移動先が見つからず、彼が宇宙船の中で冷凍されたまま宇宙の塵になってしまうなんて俺は耐えられなかった。彼は彼らしく、俺は俺らしく最後まで生きていくことが最善だと思っていたのに
「………寒いな」
思ったより冬の風が冷たくて中に入る。開かないドアを見つめて、俺はその場でしゃがみ込んだ。俺がないてどうするんだ、と立ち上がろうとするが力が入らない。そのまま意識を失うようにソファにもたれかかった
「河村…」
彼の名前を呼びながら、死んだように眠りについた
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作者名:めろんぱん | 作成日時:2020年12月10日 2時