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8メートル ページ8



「あ、A……」

席についた途端木兎が話しかけてきて、思わずぎょっと身を引いた。

目の端を光らせて、睨む。
一番会いたくないのに。
席替えをしたときは思わず飛び上がって友達に抱きついたけれど、こういう状況下での「近くの席」は泣きたいくらい辛い。


しかし当の本人は、こっちの気など知りもしないようである。
心なしかげっそりしたようで、気のせいかもしれないが髪もしんなりしていた。

「え、何があったの……?」

心配、してしまう。
少なくともさっき話しかけて来たときはピンピンしていた筈なのだが。

「いや、俺さあ」


ガタン、と木兎が私の机に倒れ込むように伏せる。

「愛、叫ぶのあきらめようかな」

「え、なんで」

「だって……」


しょぽくれモード、か。
いつかあかーしくんが言っていた。
試合中に調子を悪くして――否、駄々をこねてチームメイトに世話を焼かせるという、完全な迷惑行為。




「愛を叫びたい相手に、愛を叫びたい相手がいた」

「……は?」






――頑張れよ。


耳の中で何度もこだまする、声。
なぜか今脳裏に響いてきて、先程のやりとりを思い出す。

木兎に好きな人がいる。
私は木兎が、好き。
木兎が好きなのはたぶん、




「それはつまり、好きな人に好きな人がいたってこと?」

「そうなんだよ……」




たぶん、私じゃないはずで。


あまりにも、酷ではないか。
このタイミングで、こんな。

すぐ近くに、木兎がいる。声がする。
後を向いて、笑ってくれる。


それ以上を望む気なんて、なかったはずなのに。


期待、させないで。


「まぁ、頑張りなよ。応援してるから」




木兎に声をかけてから、私はまた目をそらす。
もし「期待」どおりの結果だったら、木兎にとって重く、痛いはずの言葉。
私は卑怯だ。


「……おう、ありがとな!!」



顔を上げた彼は、眩しい笑顔を纏ってそこにいた。

胸の奥がまた、きゅっとなる。




「……奇遇だね、木兎」

気づけば私は、口走っていた。

「ん、何が?」


――ねぇ、木兎。
私はもう、耐えられそうにないの。


「私の好きな人にも、愛を叫びたい人がいるよ」









蝉の鳴き声が大きくなる。
鬱陶しい夏が、すぐそこまで来ている。

「……え、」

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ティラミルク(プロフ) - おこめさん» 返信が遅くなり申し訳ありません。夏目漱石のこころ、いいですよね(*'▽')読破済みの方と出会えてうれしいです!二回も高評価を……何とも嬉しいお言葉!かっこかわいい木兎さんをお届けできたようでなによりです。コメントありがとうございました。 (2020年6月26日 23時) (レス) id: 5de232f7c7 (このIDを非表示/違反報告)
おこめ(プロフ) - 本当にいい作品です!!夏目漱石のこころ、私も読んだことあります!!あああああああああもう木兎さんがカッコよすぎます!それでいて可愛いです。つい勢いで1番いい評価2回も押してしまいました笑 (2020年5月19日 9時) (レス) id: 4a878294b2 (このIDを非表示/違反報告)
ティラミルク(プロフ) - 百合郷さん» コメントありがとうございます(*^^*)こんなにお褒め頂けるなんて恐縮です!少し先の話になってしまいますが、そのうち番外編を追加する予定なので、よろしければその時も見て頂けると嬉しいです(*'▽')木兎さんのキャラがつかめていたようで良かったです(笑) (2019年12月16日 18時) (レス) id: edef360b1e (このIDを非表示/違反報告)
百合郷(プロフ) - 完結、お疲れ様でした!遅ればせながらも、最終話まで拝読させていただきました。題名と内容がとても考えられたもので、木兎さんの台詞が本当にそれっぽいなぁと、楽しませてもらいました。素敵な作品をありがとうございました! (2019年12月15日 23時) (レス) id: 5fdd484f6d (このIDを非表示/違反報告)
ティラミルク(プロフ) - 優麻さん» かっこいい木兎さんを感じていただけて良かったです!ありがとうございます! (2019年11月20日 22時) (レス) id: 9b0bde0b73 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ティラミルク | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2019年10月28日 16時

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