返り咲けぬも予測済み 第二幕【鬼滅の刃】

第六十五話 饒舌 ページ22

胡蝶しのぶside


遠回しなんて甘ったるいものじゃなく、正面から彼女に「黙れ」と伝えられ、誰もが土下座の形で固まった。




『頭も下げないでください。あ、炭治郎。ちょっと来てくれる？』

竈門「えっ、俺？どうしたの？」

『この地図床に付けないようにして太陽光に当ててくれる？数分で乾くから。』

竈門「分かった！善逸、ちょっと手伝ってくれないか？伊之助とカナヲとアオイも！」




墨と鉛筆で描かれた地図を両手で持ち、柱以外を呼び寄せる炭治郎君。きっと、気を使ってくれたのでしょう。

Aは最後の一枚の和紙を広げながら、顔を上げた私たちを一度だけちらりと見る。だが、その視線は直ぐに手元へと戻ってしまう。




『…分からないようなので、教えて差し上げます。礼儀としては謝罪は確かに必要です。まず初めに謝罪をしようと考えたのはまぁ、及第点ですね。』

宇髄「(派手に上からだな。)」

『天元さん、聞こえてるから。』

宇髄「すまん。」

『…ですが、謝罪をそこまでするという事は、私に許して欲しい、と…謝れば許して貰える、とそう思っているのでしょう？』

甘露寺「そ、そんなこと…！そんなこと思ってないわ！許してくれなくてもいいの。それでもいいから、謝りたくて…！！」




耐えきれず声を上げた甘露寺さん。ポロポロと涙を零して、必死に彼女に弁明をする。




『それですよ。』

甘露寺「え…？」




以前の彼女なら、涙を流している人がいたら、きっと優しく抱きしめて慰めていただろう。相手が甘露寺さんなら尚更、心配して、駆け寄っただろう。
でも、今の彼女は心配のしの字もない。




『"謝りたい"と云うのは、つまりは過去にあった誤りを無くしたいと、同義です。過去の柵(しがらみ)を捨て、過去の行いを許して欲しい、と。そう思っているから、謝りたいと思うのです。…あの日のことを、無かった事に出来ると思いますか？』

胡蝶「A…」

『許せる訳ない。私は一生、貴方達を許しませんよ。過去は実像であって、虚像では無い。実像が虚像になる事はありません。実像は実像のまま存在し続ける。もしも、貴方達があの女に騙されていたとしても、騙されていた事は実像であり、虚像では無い。貴方達が騙され、私をここから落としたことは、虚像にはなり得ません。』




今日の彼女は、何時もより饒舌だ。

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