長編小説【刀剣乱舞】白の審神者と黒の本丸～其ノ壱 (ページ45)

今日:22 hit、昨日:7 hit、合計:174,527 hit

鬼遊び～一方、その頃① ページ45

【鬼遊び～厚・乱・五虎退】
～一方その頃、中庭にて～

「はあ～審神者さん、いないねぇ」

「一体どこへ行ったんでしょう」

「もう誰かに捕まっちまったのかもな」

中庭の木陰に三つの人影があった。

厚藤四郎。
乱藤四郎。
五虎退。

いずれも粟田口の短刀たちだ。

彼らも他の刀剣男士たち同様、審神者を探す鬼遊び参加者だ。

「いつもならわりとすぐ見つかるのに。今回みたいのは珍しいよなぁ」

間もなく日も傾き始める時間だった。

「ねぇねぇ、あの審神者さんって少し変わってると思わない？」

パタパタと帽子で扇ぎながら乱は空を見上げた。

「何が変わってるんですか？」

五虎退が訊ねる。

「何て言うか、只者じゃなさそうだよね」

乱の言葉に、五虎退は首を傾げ、厚は頷いた。

「ちょっと分かる気がする」

「どういうことですか？」

「「うーん…勘？」」

「僕にはよく分からなかったですけど、すごく綺麗な人でしたね」

「確かに」

「だよね！ボクもびっくりしちゃった。こんな人いるんだ、ってね」

「…あの人って悪い人、なんですよね？」

五虎退は確かめるように呟いた。

厚と乱は視線を合わせる。

「当たり前だろ」

「みんなそう言ってるもん」

「本当にそうなのかな、って思って…」

「…」

「…」

それを判断できる程、新しく来た審神者のことを誰も知らない。

と言うより、知る必要はないと思っていた。

「…ねぇねぇ、内緒の話してもいい？」

「なんだよ乱。内緒の話って」

「ボク、審神者なんて大っっ嫌いなんだけど」

「知ってる」

乱はストンと庭石に腰掛けた。

「これまで、あいつらなんかみんな死んじゃえばいいって思ってたんだよね」

膝を抱えて遠くを見つめる。

「だけど、鶴丸さんの話を聞いてから胸の辺りがちょっとだけモヤモヤしてるんだ」

あの夜、鶴丸が必死になって皆を説得しようとした。

その時の言葉が忘れられなかった。

「今までの審神者とは違うってやつか？」

厚は乱の隣に腰掛ける。

「審神者には今まで沢山酷い目に合わされたって言うのに…ホントはいい人かもって、懲りずに期待しちゃってる自分がいるの。ほんとボクって単純。バカだよね」

乱が笑うと、厚と五虎退が寄り添った。

「バカじゃねぇよ」
「バカじゃないです」

本丸の上空の空に暗い雲が立ち込めていた。

　
黒く禍々しい気配が、短刀たち三人にゆっくりと忍び寄っているのだった。