長編小説【刀剣乱舞】白の審神者と黒の本丸～其ノ壱 (ページ37)

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鬼遊び～殺意① ページ37

【鬼遊び】

Aは困っていた。

蛍丸や愛染と別れ、鶴丸を探し、さ迷い歩いて一体どれくらいの時間が経ったのか。

改めて衝撃を受けるほどに、この本丸は少しばかり広大すぎた。

物陰に隠れながら適当にやり過ごし、人気のない方向に進む。

そんなことを十数回繰り返し、気が付けば現在地も完全に分からなくなってしまった。

「…はぁ」

自然とため息が漏れる。

鶴丸の居場所も一向に掴めない。

そうなると、やはり地道に探すしか方法はないのだ…。

　

Aが偶然通りかかったのは、大廊下に面した広い部屋だった。

中で三人の刀剣男士たちが寛いでいる。

「「…あ！」」

「…あ」

油断していた。

Aはうっかり彼らの視界に入ってしまったこ
とに気付く。

Aを見て、男士たちの菓子を食べる手がピタリと止まった。

「まさかそっちから来るとは思わなかった。会いたかったぜ大将」

「もぉ、今まで何処に隠れてたんですかぁ？俺達すっごく探したんですよ！」

彼らは素早く立ち上がり迷わず抜刀する。
相手はすでに戦闘態勢に入ったようだ。

Aは数歩退がり距離を取る。
出来れば今は円満解決を希望したい…。

「一応伺いますが、話し合いの余地はありませんか？」

僅かな望みに賭けてみる。

「ないな」
「ないです」
「ない」

そして期待した答えは勿論返ってこない。

じりじりと距離が詰められた。

ここはとりあえず、退却だ。

そう判断した時、背後に凍るような気配を感じた。

振り返ると、太刀を携えた一人の青年が立っていた。

「一期一振さま…」

「審神者殿、またお会いできましたな。こんな所にいらっしゃるとは思いませんでした」

優しげな声音だった。

そのまま刀を構える三人に視線を移す。

「薬研、鯰尾、骨喰。審神者殿に失礼はしていないかい？」

「安心してくれいち兄。俺達もたった今会ったばかりだ」

「そうか、それなら良かった」

一期一振が微笑んだ。

「…さて、審神者殿」

「はい」

「早速ですが、死んで頂いてもよろしいですかな？」

柔らかな口調から飛び出たのは、まさかの物騒な発言だった。

「捕まえるの間違いでは？」

「あぁ失礼。つい本音が出てしまいました」

一期一振は再びゆるりと微笑む。

穏やかな笑顔とは対照に、纏う気配は審神者に対する憎悪と敵意で溢れているのだった。