長編小説【刀剣乱舞】白の審神者と黒の本丸～其ノ壱 (ページ19)

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近づく距離① ページ19

【近づく距離～Aside】

この本丸に来て、数日が経ちました。
　

今日も、私の部屋にはあの方が来ています。

真名を預けてからというもの、鶴丸さまは毎日のようにこの部屋を訪ねてくれるようになりました。

特に何をするでもなく、居眠りをしたり、外を眺めたりしてゆったりした時間を過ごされています。
　

　
私は資料で散らかった机の上を片付け始めました。

　
「鶴丸さま、そろそろ休憩にしようかと思うのですが、ご一緒にお茶でもいかがですか？」

　
すると鶴丸さまはにこりと笑いました。
　
　
　
「今日はなかなか声を掛けてくれないから、待ちくたびれたぜ」

　
「ふふ、お待たせしてすみません」
　

縁側に並び、二人で仕事の合間にお茶を飲むのがここ最近の日課になりました。

「…しかし、住む奴が違うだけでこんなに雰囲気が変わるとはな」

　
そういうと鶴丸さまは部屋の中を見回します。

不要な荷も全て処分したため、部屋の中は広々としています。

「ここに来るのが楽しみになる日が来るとは思わなかったよ」
　

鶴丸さまは照れたように笑いました。
　

「なぁ」

　
「はい」

「君は俺が怖くないのか？」

「怖い？なぜですか？」
　

「なぜって…自分を襲おうとした男、普通近くに置きたくないだろ」

鶴丸さまは言いにくそうに呟きました。

「あなたが本気でなかったことくらいちゃんとわかっていますよ」

「いや、本気だったんだが…」

「ふふ、御冗談を」

「……」

「そう言えば鶴丸さま。私に頼みたいことがあると仰っていましたね」

　
「……はぁ…」

返事の代わりに深いため息が返ってきました。
　

「鶴丸さま？」

　
「呼び方が気に食わない」

　
「え？」
　

急に私の手を取りました。
　

「敬称なんて必要ないだろう。俺のことは呼び捨てでいい」

　
触れた手から少しだけ緊張が伝わってきます。

　
「神様相手にそんなこと」

　
「君は真面目だな。気にするな」

　
「でも…」

「いいから」

私は先日まで天界の神に仕えていた身です。

そういえば、先生も同じようなことを言っていました。

　
名前なんて好きなように呼んだらいいと…。

　
神様は呼び名にこだわらない方が多いのでしょうか。

それとも、そういう神様にご縁があると言うことでしょうか？

困っていると、私を掴む鶴丸さまの手に、ぎゅっと力がこもりました。