第一章 第二十五話 ページ28
「A、用意はできましたか」
「うん、もういつでも出発できるよ」
「忘れ物とかないですね？」
「子どもじゃないんだから、大丈夫だってば」
今日は一週間過ごしてきたこのホテルとも別れの日だ。
あの後、私はフーゴに手伝ってもらいながら部屋の内見や生活必需品を買い揃え、この日に向けての準備を着々と進めてきたのだ。
ブチャラティさん達も私がイタリアに住む上で必要な手続きを進めるのを手伝ってくれたらしく、彼らには頭が上がらない。気にするな、と皆言ってくれたが今度何かしらのお礼はしなければ…
「本当に、荷物の運び込みまで手伝ってくださって…すみません」
「謝る必要はねえ。フーゴが、彼女が家に引っ越す日まで家具をここに置いてもいいですか〜とか言ってアジトに運び込んできやがったんだから、このくらいしてやるさ」
ホテルの前に車を止めて待っていたアバッキオさんが運転席から気怠げに目線をこちらへ動かす。
「もうアジトにあったお前の荷物は運び込んである。後はお前を家まで運ぶだけだから早く乗れ。」
「もうアバッキオ、そんな言い方じゃ彼女が怖がっちゃいますよ？」
「うるせェ！元はと言えばお前が元凶だろうが！朝っぱらから無駄に機嫌よくしてんのも腹立つんだよ」
「そんなことないですってば。さ、無駄話はこれくらいにして早く行きましょう」
どうぞ。とフーゴが車のドアを開ける。
彼のこういう振る舞いにはなかなか慣れる気がしないし、なんだかむず痒い気持ちになるがエスコートを受けるのもマナーだと叱られてしまうのでぎこちなく車に乗り込む。
「このままあいつだけ置き去りにしても面白ェな」
「聞こえてますよ。僕もちゃんと乗りましたから車出してもらえます？」
大きめに舌打ちをしてアバッキオさんがアクセルを踏み込むと、段々とホテルが遠ざかっていく。
何だかこれまでとは全く異なる世界に踏み込むようで心臓が五月蠅く脈打っていき…高まる高揚感から手に汗が滲む。
「大丈夫ですか？気分が悪くなったらすぐ言ってくださいね」
無意識のうちにそわそわと体を動かしてしまっていたようで、心配そうにフーゴが私の顔を覗き込んだ。
「大丈夫だよ、ありがとう」
そう返しながら何気なくバックミラーを見るとアバッキオさんと目が合ってしまった。彼とは最初に会った時より幾分かは親密になれたが、まだやっぱり他の人たちよりは緊張してしまう。
終わり
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淡深雪 肴(プロフ) - fenonさん» コメントありがとうございます。当方多忙の為更新頻度は落ちますが、定期的に皆様にフーゴをお届けできるよう善処いたしますのでこれからも是非ご愛顧下さいませ！ (2020年8月14日 10時) (
レス) id: 0d31e9065f (このIDを非表示/違反報告)
fenon(プロフ) - 本当に私得で大好きです。お気に入りさせていただきました！ (2020年8月14日 9時) (レス) id: 8dce9856e7 (このIDを非表示/違反報告)
淡深雪 肴(プロフ) - 伯さん» 伯様素敵なご感想ありがとうございます。作者がこだわっている点に気づいていただけて喜ばしく思います!! 至らぬ作者でございますが、今後とも本作品をご愛読ください! (2020年5月28日 10時) (レス) id: 0d31e9065f (このIDを非表示/違反報告)
伯(プロフ) - いつも楽しく読んでいます。出会いたての頃は大人びて見えたフーゴくんが、夢主と親しくなるにつれヤキモチやいたり慌てたり照れたりと年相応の一面を見せるようになるのがとても可愛くて好きです。素敵なフーゴくんをありがとうございます、今後も楽しみにしています！ (2020年5月28日 0時) (レス) id: bb5d92349b (このIDを非表示/違反報告)
淡深雪 肴(プロフ) - りんさん» りん様激励のお言葉ありがとうございます。作者のモチベーション維持にも関わりますので本当に嬉しいです…!! より一層精進して参りますのでこれからも是非ご愛読ください! (2020年5月27日 21時) (レス) id: 0d31e9065f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：淡深雪 肴 | 作成日時：2020年5月3日 19時
