第一章 第二十二話 ページ24
「一か月ですね」
彼がそう復唱した。
「一か月、ここにいてくれますか」
全くの予想外の発言、というわけではなかったが、実際に言われてみると多少の重さと驚きが入り混じる。
どことなく縋るような、期待を孕んだ美しい眼差しに心が掴まれる。
すぐにでも首を縦に振り二つ返事で了承したいのは山々だが、どうしても楽観的に考えられないでいた。日本には課題を山ほど残してきたし、第一、一人暮らしではないから少なからず両親が心配するだろう。
イタリア滞在を延長する手続きも、内向的で臆病な私には中々厳しいものがある。それに滞在費や滞在する場所も新たに探さねばならない。
そのような考えの為に返答できないでいると、傷ついたような顔で顔をじっと見つめられる。
「駄目ですか？」
「私もここにいたいんだけど、手続きとか費用とか色々心配で」
「そういうことは僕がやりますから、心配しないでください」
そう言ってはくれるが流石に規模が大きすぎて、じゃあいいですよなんてとてもじゃあないが言えない。
「気持ちは有難いけど、フーゴにそんな負担かけられないよ」
「僕はあなたに残ってほしいからやるんです。負担なんて思わないですよ」
「でも…」
「それとも、頼むのが僕じゃ嫌ですか？」
「そんなわけ」
「じゃあ素直に僕を頼ってください」
真っ直ぐに目の奥を見つめられる。先程よりも少し近づいたような気がする距離が、何を言っても許容されそうな錯覚を与えてしょうがない。
本当に彼を頼ってもいいのだろうか。
「迷惑じゃあない？」
「迷惑なんて、僕はあなたが」
少しばかり間が開いたが、滞った様子はなく次の言葉が紡がれる。
「ずっとここにいてほしいと思ってます」
そんなことを言われたのは初めてで、顔に熱が集まるのがわかる。
弁解をしておくと、決して不相応な期待をしているのではない。ただ、私には人に必要とされたり肯定されたりすると無意識に頬を紅潮させてしまうという困った癖があるのだ。
しかしこう真面目に言われるといつも以上に顔を熱くしてしまう。
「だからここに残ってくれますか？A」
彼の声が麻酔のように体に回りふわふわと浮遊感に包み込まれる。
ろくに危惧すべき問題も考えられなくなって、ただただここに残りたいと思った。
その時にはもう、少し大げさに首を縦に振っていた。
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淡深雪 肴(プロフ) - fenonさん» コメントありがとうございます。当方多忙の為更新頻度は落ちますが、定期的に皆様にフーゴをお届けできるよう善処いたしますのでこれからも是非ご愛顧下さいませ！ (2020年8月14日 10時) (
レス) id: 0d31e9065f (このIDを非表示/違反報告)
fenon(プロフ) - 本当に私得で大好きです。お気に入りさせていただきました！ (2020年8月14日 9時) (レス) id: 8dce9856e7 (このIDを非表示/違反報告)
淡深雪 肴(プロフ) - 伯さん» 伯様素敵なご感想ありがとうございます。作者がこだわっている点に気づいていただけて喜ばしく思います!! 至らぬ作者でございますが、今後とも本作品をご愛読ください! (2020年5月28日 10時) (レス) id: 0d31e9065f (このIDを非表示/違反報告)
伯(プロフ) - いつも楽しく読んでいます。出会いたての頃は大人びて見えたフーゴくんが、夢主と親しくなるにつれヤキモチやいたり慌てたり照れたりと年相応の一面を見せるようになるのがとても可愛くて好きです。素敵なフーゴくんをありがとうございます、今後も楽しみにしています！ (2020年5月28日 0時) (レス) id: bb5d92349b (このIDを非表示/違反報告)
淡深雪 肴(プロフ) - りんさん» りん様激励のお言葉ありがとうございます。作者のモチベーション維持にも関わりますので本当に嬉しいです…!! より一層精進して参りますのでこれからも是非ご愛読ください! (2020年5月27日 21時) (レス) id: 0d31e9065f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：淡深雪 肴 | 作成日時：2020年5月3日 19時
