第一章 第十八話 ページ20
「な…ッッ！！！！」
彼女の一種の告白のようなそれは、慎ましやかに咲き誇る淡い桜のように彼の頬を紅潮させた。
先程まで呼び起こされた憎悪に痛みを感じていた彼だったが、予想外の副産物に驚きと喜びに制圧されてしまったようだ。
しかし、Aがそのような意図で投げかけたのではないと気付いたのは彼女自身の純粋な発言からだった。
「私も、チームの皆のように仲間として支えさせてほしい」
もはやそれは一種の拒絶ではないかと彼は思った。
行き場のなくなったいじましい感情が心根に住み着いて離れない。
きっとそれは思いがけず疑似的な色恋の気に当てられたからだろうと心を落ち着かせ、冷静に向き合った。
「もう仲間なんだから、僕の許可なんて取らなくていいさ」
仲間。
その単語だけで救われたような気分になる。
彼女は日本に仲間がいないというわけではない。長期的に付き合ったわけではない人間が自分のことを認めてくれたという事実が嬉しいのだ。
「ありがとう…っ」
「何で君のほうが喜んでるんだよ」
全くもうといった風にため息をつき、無意識に口元を覆った。
するとプラットホームに電車の発着を知らせる音楽が鳴り響き、間もなく予定していた車両が到着した。
然程混んでいない車内を見渡して適当な席に座る。
Aは無関心な周りの乗客達を気遣い、抑えた声でフーゴに話しかけた。
「そういえばさ」
妙にひそひそと話しかけてくる彼女を、内緒話をする子供みたいだなと思いながら耳を傾ける。
「フーゴの名前ってパンナコッタだよね」
「そうだけど、急にどうしたんです」
「おばあちゃんからは何て呼ばれてたの？」
何故そんなことを聞くのか。
彼女は内心、彼の名前は少し呼びづらいなと思っていた。単なる興味でもあるのだが、仲の良かった彼の祖母なら何か別の呼び方をしているだろうと問いかけたのだ。
今まで生きてきた中でそんなこと聞かれもしなかったフーゴは、内心気恥ずかしく思いながら言い淀んで答えた。
「…パニー」
厳格に髪の毛を固めた精悍な顔立ちの青年からは想像もできない可愛らしい愛称に、思わず口角が上がってしまう。
「かわいいね」
「嬉しくないッ」
大体何でそんなこと聞くんだッとぶつぶつ不平を言う彼が幼く見えて、Aは胸が締め付けられた。
窓の外では、所々に薄くかかった雲が青の中を気ままに流れていた。
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淡深雪 肴(プロフ) - fenonさん» コメントありがとうございます。当方多忙の為更新頻度は落ちますが、定期的に皆様にフーゴをお届けできるよう善処いたしますのでこれからも是非ご愛顧下さいませ！ (2020年8月14日 10時) (
レス) id: 0d31e9065f (このIDを非表示/違反報告)
fenon(プロフ) - 本当に私得で大好きです。お気に入りさせていただきました！ (2020年8月14日 9時) (レス) id: 8dce9856e7 (このIDを非表示/違反報告)
淡深雪 肴(プロフ) - 伯さん» 伯様素敵なご感想ありがとうございます。作者がこだわっている点に気づいていただけて喜ばしく思います!! 至らぬ作者でございますが、今後とも本作品をご愛読ください! (2020年5月28日 10時) (レス) id: 0d31e9065f (このIDを非表示/違反報告)
伯(プロフ) - いつも楽しく読んでいます。出会いたての頃は大人びて見えたフーゴくんが、夢主と親しくなるにつれヤキモチやいたり慌てたり照れたりと年相応の一面を見せるようになるのがとても可愛くて好きです。素敵なフーゴくんをありがとうございます、今後も楽しみにしています！ (2020年5月28日 0時) (レス) id: bb5d92349b (このIDを非表示/違反報告)
淡深雪 肴(プロフ) - りんさん» りん様激励のお言葉ありがとうございます。作者のモチベーション維持にも関わりますので本当に嬉しいです…!! より一層精進して参りますのでこれからも是非ご愛読ください! (2020年5月27日 21時) (レス) id: 0d31e9065f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：淡深雪 肴 | 作成日時：2020年5月3日 19時
