第一章 第九話 ページ11
「お兄ちゃん、いつ日本に帰るの？」
どうやら昨日飲みすぎたらしく、軽い頭痛に顔を歪めている兄に向かってそう尋ねた。
「今夜発つ予定だよ。昨日は一緒に回ってやれなかったから、今日は僕が案内するね」
「ありがと！昨日は美味しいピッツァを食べたから、今日は別の物を食べてみたいな」
「じゃあ、お勧めのリストランテに連れてってあげるから準備しておいで」
「美味しかったね〜」
「そうだね！」
今日のお店もとっても素晴らしかった。
普段ならこういうお高い店には行かないが、値段も一流だと流石料理の品質も一流だ。
オッソブーコという料理には子牛のすね肉とリゾットが使われているのだが、風味付けのレモンとパセリが大蒜と調和して、軽やかかつ深みのある味を作り出していた。噛んだ瞬間に感じられる、肉のほんのりとした弾力がまた充足感を煽る。
数々の料理の中でも、私が特に気に入ったものがビチェリンだ。苦いものが苦手かつ甘すぎるものも受け付けない私は、この飲み物に少し抵抗があった。だが、口内で混ざり合うコーヒーとホットチョコレート、そして冷たいホイップクリームが絶妙な糖度と味わいを保たせており、思わず嚥下することを忘れてしまうほどだった。
「A、大丈夫かい？」
また自分の世界に入り込んでしまったようだ。
いつの間にか立ち止まっていて、目の前にいる兄が心配そうに私の顔を覗き込んでいる。
「少しあの店によって来るからAはここで待っててくれる？すぐ戻るから」
「わかった！行ってらっしゃい」
さっきの店をあれ程称賛したが、昨日連れて行ってもらったところも美味だった。シンプルイズベストとはまさにあの料理のことを言うのだろうなと思ったものである。
と料理の余韻に浸っていると、不意に少し手が軽くなったような気がした。
手のほうを見てみると、鞄がない。
左前方を見てみると、何故か少年に腕を捻りあげられている男がいる。どういう状況なんだ。全く理解できない。
「あなた、外国ではもっと注意して自分の荷物を守ったほうがいいですよ。じゃなきゃあ、こんな風にスラれるだけですから」
金髪の少年に腕を解放された男は、さも自分が襲われたかのように逃げていく。
「はい、荷物。今度はちゃんと気を付けてくださいね」
「あ、ありがとうございます」
私が呆然としてる間に、少年はすぐに去っていってしまう。
お礼をしたかったのだが、呆気にとられていて動くことを忘れていた。
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淡深雪 肴(プロフ) - fenonさん» コメントありがとうございます。当方多忙の為更新頻度は落ちますが、定期的に皆様にフーゴをお届けできるよう善処いたしますのでこれからも是非ご愛顧下さいませ！ (2020年8月14日 10時) (
レス) id: 0d31e9065f (このIDを非表示/違反報告)
fenon(プロフ) - 本当に私得で大好きです。お気に入りさせていただきました！ (2020年8月14日 9時) (レス) id: 8dce9856e7 (このIDを非表示/違反報告)
淡深雪 肴(プロフ) - 伯さん» 伯様素敵なご感想ありがとうございます。作者がこだわっている点に気づいていただけて喜ばしく思います!! 至らぬ作者でございますが、今後とも本作品をご愛読ください! (2020年5月28日 10時) (レス) id: 0d31e9065f (このIDを非表示/違反報告)
伯(プロフ) - いつも楽しく読んでいます。出会いたての頃は大人びて見えたフーゴくんが、夢主と親しくなるにつれヤキモチやいたり慌てたり照れたりと年相応の一面を見せるようになるのがとても可愛くて好きです。素敵なフーゴくんをありがとうございます、今後も楽しみにしています！ (2020年5月28日 0時) (レス) id: bb5d92349b (このIDを非表示/違反報告)
淡深雪 肴(プロフ) - りんさん» りん様激励のお言葉ありがとうございます。作者のモチベーション維持にも関わりますので本当に嬉しいです…!! より一層精進して参りますのでこれからも是非ご愛読ください! (2020年5月27日 21時) (レス) id: 0d31e9065f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：淡深雪 肴 | 作成日時：2020年5月3日 19時
