ページ36
「気づいてたんですか」
沖田は驚いた。気づいていたなら何故最初から撒かなかったのだろうか。
Aは大して気にしていないと言う様に、あっさりと頷く。
「コイツの命日は毎年できるだけ休むんだけど、去年は討ち入りが重なってて休みを取ってねーんだ。
でも今年はたて込んで無かったからさ、非番取った。」
「言ってくれれば俺たちも付いて行かなかったのに…」
口を尖らせる沖田に、Aは苦笑いしてもう一度「悪い」と謝る。
「墓参りって言うと、お前ら気を遣うだろ」
そう言ったAの目は憂いを帯びていて、沖田はAが同期を思い出しているのだとわかった。
(まただ。)
またこの人は＿＿＿＿自分との間に線を引く。
(別に気を許していないわけじゃねェんだろうが……無意識に俺等に自分の深いところを踏み込ませねェ様にしちまってる。)
(あの黒島って人は…真選組を大切にしてるって言っていたが……実際のことは分かんねェ。)
(いつまで経っても、この人が読めねェ。)
沖田は、自分とAの間に置かれた酒瓶が二人を分ける境界線に見えて仕方がなかった。
距離は縮まらない。境界線はどこまでも伸びているように感じて、沖田は迷子になった子供のように、置いていかれた子供のように＿＿＿＿途方に暮れて、何だか泣きたくなった。
Aの深い藍色の目は、沖田から夜空に移る。
夜空を見上げるAは儚くて、消えてしまいそうで＿＿＿＿でも沖田は何もできずにAと同じ様に夜空を見る。
二人の間に言葉は無かった。
(幼いな。)
寝てしまった沖田を見てAは思った。
そこにはあどけなさの残る寝顔がある。
(いくら大人びているとは言えど、まだ十八歳。年相応の寝顔だな。)
沖田から目線を外すと、ふと昔の写真が目に入る。
(今年もまた、アイツの墓に行けなかった。)
(いつまでも怖気づいてて進まねぇ。運もクソもねぇ。チャンスも来ねぇし手に残ったのはアイツが命がけで託してくれた証拠一つ。)
(そもそもアイツが死んだのは＿＿＿＿)
は、と短く息を吐く。
(あぁ、もぅ。)
Aは苛立ち、俯いて癖のある前髪をくしゃりと握った。
「死ねよ、私。」
髪を掻きむしって、一人自嘲気味に笑う。
そして腹から込み上げる衝動を抑え込めるように上を見た。
夜空は雲ひとつ無く、美しい寝待月が此方を見下ろしていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 350人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
通行人N(プロフ) - 謬見さん» コメントありがとうございます(_ _;)毎週土曜日更新の予定です。Twitterで更新したらお知らせしていますので、ぜひそちらも✨これからも頑張りますのでまた感想をお聞かせ下さいね！ (2022年11月20日 16時) (
レス) @page17 id: 39adec4ff4 (このIDを非表示/違反報告)
謬見(プロフ) - 面白くて一気読みしちゃいました(*´꒳`*)更新待ってます！！ (2022年11月19日 21時) (レス) id: 9ecb800a6a (このIDを非表示/違反報告)
通行人N(プロフ) - 鬼魂さん» コメントありがとうございます(_ _;)そう言っていただけてとても嬉しいです✨これからも更新頑張りますので宜しくお願いします。 (2022年11月14日 15時) (レス) id: 39adec4ff4 (このIDを非表示/違反報告)
鬼魂 - とても面白いです！更新頑張って下さいｯ!楽しみに待ってます！！ (2022年11月13日 16時) (レス) id: ce3cc772d9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：通行人N | 作成日時：2022年10月1日 10時
