31-2 ページ15
「急に優しいね。ちょうど喉乾いてたんだ〜」
そう言ってAはベッドに腰掛けた。
彼女からは、水を注ぐグラスが見えない。ちょうど神威の陰になっている。
「はい」
「ありがとう」
笑顔で手渡されたグラスを両手で持ち、口を付けて傾ける。
神威はそんなAの様子をじっと見ている。実はこの水、睡眠薬を溶かしてあるのだ。
普通、一般人が手に入れられる睡眠薬は悪用防止のために色が付けてある。液体に入れたら青くなるように作られている。しかし、それはあくまで一般人の話。
無色の睡眠薬も裏で流通している。巨大な犯罪シンジケートの師団長という地位に着く者ならば、そういう違法薬 物くらい持っていても不思議ではない。
神威は戦闘を好む性質上、使ったことはなかったし使う予定もなかった。たまたま春雨関係で会った人から押し付けられただけの薬だった。これを使う日が来るなんて一度も思ったことがなかった。
グラスの中身が半分まで減ったところで、Aはグラスをサイドテーブルに置く。無造作に置かれていたバスタオルで口元をごしごしと拭いた。
そして、大きく欠伸を一つ。
「ふぁ〜あ。さっきの騒動で疲れちゃったかな、すっごく眠い。寝るから部屋出てって」
「そう、おやすみ」
Aがベッドで横になり始めたので、神威は布団をかけた。
目を閉じた彼女からは規則正しい腹式呼吸が聞こえる。
──寝たようだね。
神威は静かに部屋を去る。
「……ごめん」
小さな呟きは、ドアが閉まる音にかき消された。
……これで神威を邪魔する者はいなくなった。存分に戦える。
なぜなら、今の神威ではAに止められたら揺らいでしまうかもしれないから。
だから眠らせて、起きるまでの間に全てを片付ける。
どうせ明日出発の予定だ。
このまま宇宙に出るまで目覚めないでいてもらおう。そうなれば、彼女は何も知らないままでいられる。
ただ静かに、安全な場所で眠っているだけで全てが解決するのだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 117人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：夢宵桜 | 作者ホームページ：https://lit.link/dreamfairy
作成日時：2024年3月25日 21時
