おじさん天使の憂鬱。3

パパと夏休み。135 ページ38

Side ジュン


ショウさんの運転で、高速に乗って1時間もすれば
ちらちらとのぞく景色は
都心のそれとは、だいぶ様子が変わる。

高いビルが減って
青々とした木々や田んぼ、畑もまじってきて
似通った景色が、どこまでも続くようになった。


助手席では、発車数分後には
大埜さんの寝息が聞こえ始めていたけど..

こっちも、ついに電池切れみたいだ。

窓にもたれかかって、静かに目を閉じているカズ。

昨日だって遅かったのに
今朝は、いったい何時に起きたんだか。

「カズくん..。」

熟睡している証拠に
まーくんの、熱ーくて、とろけそうな視線に
普段なら、気づいて目を覚ますのに
全く起きる気配はない。

「カズくん、きれー..。」

父親の寝顔に、熱いため息をこぼす
危ない息子。

まあ、確かに
30代のおっさんには、見えないけど..。

「カズくんの、お顔
　ひさしぶり。」

ねえ、まつじゅん
これ、取って―と。

だいぶサイズがぎりぎりになった
チャイルドシートのベルトを指す、まーくん。

「危ないから、走ってる間は
　我慢しろ。」

「あ、ほら、いま信号赤だから！
　すぐ、終わるから！」

「？」

はやく、はやく、と、せかすので
すぐ戻れよ、と忠告して、ベルトを外すと。

ぐいって、体を乗り出して
カズの頬に
得意の、タコのように尖らせたくちびるを
むにゅっと、押し付けた。

「えへへ。
　ありがとう、もう、だいじょうぶ！」

ベルト、つけてー！って
へらへらしながら、シートに収まる。

開いた口が塞がらないのは
俺も
バックミラー越しに一部始終を見ていたショウさんも
一緒。


なんか、あれだな。

まーくんも、カズも
お互いに会えないと
思いが募りすぎて
こじらせるな。

わ、笑えねぇ..。

もうちょっと、仕事を減らしても
いいんじゃないか？

キャパシティーからいえば
需要については、いくらでもあるわけで
とっくのむかしに、100％は超えていて。

どこまでセーブするかの問題だけど。

金銭的にも、ここまで働かなくても
困りはしないはずなんだ。

..ほんと、朝の話じゃないけど
身を削って
まーくんためだけの金に換えているような
カズの働き方は
いつだって、ちょっと、危なっかしい。


「ついたぞー。」

「おんせん！！」

途中、休憩をはさみながら
ドライブすること、約2時間半。


いかにも、温泉地という
山間のくねくねした細い道を抜けると
まるで映画に出て来るみたいな
大きな温泉宿にたどり着いた。

パパと夏休み。136→←パパと夏休み。134

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す