おじさん天使の憂鬱。3

VS　めがねアイドル。121 ページ24

Side サトシ


NINOが登場して
まだ、短いトークを始めたばかり。

ランキング1位受賞について
司会の人にインタビューされて
いつも通りの、懐っこい笑顔で
ファンやスタッフの人たちへの感謝を
口にしている。

俺から見れば
普段と、大きな違いのない
歌番組の、一場面。


「まー？なに、泣いてんの？
　NINO、待ってたんだろ？」

思いがけない、というか
理由のわからない、まーくんの涙に
カズも、珍しく、慌てている。

カズに、頬をなでられても
画面から、視線を外すことなく
見開いた目から
涙は、止まらない。

大人たちが、顔を見合わせる中
NINOの歌が、始まると。

まーくんは、いよいよ
画面に背中を向けて
カズのお腹に、顔をうずめてしまった。

「まー？どうしたんだよ。
　お前、そんなに、NINOの歌に感動したわけ？
　泣いてたら、聞こえないし、見えないだろ？」

カズが、ためらいがちに持ち上げた手で
背中を、ぽんぽん、しても
自分でも、どうにもならないみたいに
ちいさな嗚咽におぼれる、まーくんは
返事ができない。


NINOの出番が終わって
CMに入った時になって、やっと
まーくんは、だって..と
話が出来るようになった。


「NINO、かわいそう..。」

「え？」

「NINOも、おかぜ、なの？
　こえ、へんだった..
　おかおも、あかかったし..
　くるしそうだったよね？
　だいじょうぶなのかな？」


言われた、カズも
現場でも、見ていたはずの、ショウくんも。

いま、テレビ越しだけど
一緒に見ていた俺も。

うそだろうって、顔をしている。

きっと、カズ本人だって
ばれないように、やりきったって、思っているだろうし。

実際に、いまの放送から
普段のNINOとの違いなんて
先入観のフィルターを通したところで
見逃せるくらい、わずかなもので。


だけど、まーくんは
NINOが、心配って
しゃくりあげている。



「..大丈夫だろ。」

「カズくん..。」

「いつも通り、可愛くて
　お歌もうまくて
　ダンスも可憐だっただろ。」

「..ん..。」

「いまごろ
　本番が終わって、浴びるように酒でも飲んでるよ。」

「NINOは、おさけなんて、のまないもん！」

「子どもが、余計な心配するんじゃないの。」


全力で、否定した、まーくんを
膝から降ろして
リビングを出ていく、カズ。


小さな背中は
深く息を吐いて
ようやく、少し、緊張が解けたようにも見えた。

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