涙で光るガラス (ページ4)

今日:12 hit、昨日:13 hit、合計:110,020 hit

4 ページ4

.

いつもコーヒーだけ飲んで会社に行くから、久しぶりに朝ごはんを食べた気がする。

『海斗くんって、なんでこのカフェ知ってるんですか？別に有名じゃないし、おじさんがひとりで経営してる小さなお店なのに』

松倉「あー…それは、たまたま見つけたんですよ」

ドーナツをパクッと食べた海斗くんは、頬が膨らんでいて可愛い。

『お家ってこの辺なんですか？』

松倉「電車で1時間半くらいですかね」

『遠いですね。職場がこっちの方とかですか？』

松倉「いや、所謂朝活ってやつです」

『わざわざ遠いところまで凄いですね』

松倉「ここが落ち着くから」

他愛もない話で、刻々と時間が過ぎていく。

松倉「Aちゃん、もし電車まで時間があればそこの海行きませんか？」

今日は早めに来ていたから、会社に行く電車まではまだ時間がある。

『はい。行きましょ』

カフェを出て裏道を通って、いつもカウンター席から見える海に着く。

海斗くんはまた、帽子とメガネとマスクをつけた。

松倉「あー気持ちいい！」

『海、好きなんですか？』

松倉「好きです。名前にも入ってるし地元も海あったんでつい親近感湧いちゃうっていうか」

『そうなんですね』

凛とした瞳で地平線を見つめる海斗くんは、ただ海を見てるだけなのにとても画になる。

『…私、ここでシーグラスを拾うのが好きなんです』

松倉「シーグラスですか？」

『はい。ここに来たら必ずひとつだけお気に入りのものを持ち帰るって決めてるんです』

松倉「いいですね、それ」

海斗くんも探したいと言ってくれて、お互い歩いて目視で探したり、少し石が混ざった砂浜を掘ってみる。

それぞれ見つけたものを持ち寄って、カフェ近くのに集合する。

せーのでシーグラスを見せ合うと、松倉くんは青、私は緑のもの。

松倉「よかったら交換しませんか？」

『え？』

松倉「ここで会えた時は、お互い良いなって思ったシーグラスを交換するってどうですか？」

『楽しそう！』

松倉「じゃあ、今日から交換で」

『はい、約束！』

松倉「約束」

多分指切りげんまんなんてやったの小学生ぶりで、こんなことに付き合ってくれる海斗くんはとても優しい人なんだと思う。