涙で光るガラス (ページ5)

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『じゃあ私、そろそろ時間なので』

松倉「あの！今度からお互い敬語なしでどうですか？もうこれで会うの3回目ですし」

『わかりました。またね、海斗くん！』

シーグラスを握りしめたまま駆け足で駅に向かって、いつもの電車に乗り込む。

いつも海に行った時はひとりでシーグラスを探して拾って、ただ小さい頃と同じようにクッキーの缶に集めるだけだった。

これからはひとりじゃないんだ。

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松倉「おざっすー」

『おはよう』

今日もドーナツとコーヒーを席に持ってきた海斗くんは、背負っていたギターケースを壁に立てかけた。

松倉「ドーナツ、食べる？」

『いいよ。前ももらったし』

松倉「てか、あげるから食べて」

『…ありがとう』

もらったドーナツを食べている隣で、海斗くんはカバンから小説を取り出して読み始めた。

私もカバンからファッション誌を取り出す。

松倉「ん、ファッション誌？」

『うん。海斗くんがいつも本読んでるの見てて、どうせコーヒー飲んで海眺めてるだけなら、本読むのもいいかなって』

海斗くんみたいに活字ばかりのは苦手だけど

ファッション誌なら読めるかなって、この前仕事帰りに買っちゃった。

松倉「ちょっと見せて」

『いいよ』

海斗くんに本を手渡すと、ペラペラとページをめくって、あるページで動きが止まったと思うと直ぐに閉じた。

松倉「…ねぇ、これ読んじゃダメ」

『え？』

松倉「これ俺に買い取らせて」

『なんで？』

松倉「なんでも。これはダメ」

『じゃあ、何なら読んでいいの？』

松倉「俺、今度選んでくるから。それまで待っててくれないかな？」

『うん、わかったけど…』

松倉「折角Aちゃんが買ってきたのにごめん」

『いいよ、海斗くんのオススメ楽しみにしてるね』

海斗くんのカバンに入ったファッション誌。

買い取るからとお財布を出てきたから、ドーナツ代あげてないからいいよと断った。

"次買ってくる雑誌代は気にしなくていいから"と言う海斗くんは本当に申し訳なさそうにしていた。

理由はよく分からないけど、そこまでこだわって選んだ雑誌でもないし

いつもお洒落な海斗くんが選んできてくれるファッション誌なら間違いないよね。

松倉「海、行こっか」

私がドーナツを食べ終えてコーヒーを飲み終わった頃、海斗くんは小説を閉じてニコッと笑った。