涙で光るガラス (ページ20)

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松倉「遅くなっちゃってごめんね。今仕事終わって駅向かってるとこなんだ。1時間ちょいあれば行けると思うんだけどお邪魔してもいい？」

『いいよ』

松倉「ご飯食べた？」

『ううん、食べてない』

松倉「じゃあどこか寄ってテイクアウトするから一緒に食べよう」

『うん、ありがとう』

時計を見ると22時を過ぎていて、今から海斗くんが来るなら明日の仕事はサボっちゃいたいな、なんて。

インターホンが鳴ったのは、23時半頃だった。

海斗くん、帰りのことって考えてるのかな。

ここの最寄り駅の終電は都心よりも早いこと覚えてるかな？

…一緒にいたいから教えてあげない私は、我儘でひねくれてて、真っ直ぐな海斗くんには不釣り合いだよね。

松倉「遅くなってごめんね、迷惑じゃない？」

ドアを開けると、海斗くんが朝とは違う服で立っていた。

『大丈夫だよ、お仕事お疲れ様』

松倉「Aちゃんもお疲れ様」

"カレー買ってきた！"とニコニコしながら手にぶら下げたビニール袋を見せてくる。

家に上がってもらって手を洗って、テーブルにランチョンマットを敷いてコップを出した。

『カレーいくらだった？』

松倉「俺が食べたかっただけだからお代はいらない！」

『そう…？ありがとう』

松倉「いいの。俺最近ずっとこのお店のカレー食べてるんだよね」

『そうなんだ』

松倉「あとシーザーサラダと、フライドポテトと…」

『海斗くんいっぱい食べるね(笑)』

松倉「めっちゃお腹空いてたんだよね！ビール飲んでもいい？Aちゃん飲めるか分からないからビールとオレンジジュースも買ってきた！」

『ありがとう。ビール飲めるからもらうね』

コップにビールを注いでふたりで乾杯をした。

海斗くんはいつもロースカツカレーにチーズをトッピングするらしくて、隣で一口ずつ美味しそうに食べていた。

ご飯を食べ終えて、家にあったお菓子を出してオレンジジュースを半分こした。

もう終電の時間はとっくに過ぎているのに

海斗くんも私も、何も言わない。

『ねぇ、海斗くん』

松倉「ん？」

『ひとつ、聞いてもいい？』

松倉「どした？」

『この前のことなんだけど、その…』

"この前、なんでキスしてきたの？"

そう直球に聞ければいいのに。

聞こうと思った言葉が上手く声に出せない。

そんな私をじーっと見つめてきていた海斗くんは、私の頬に手を伸ばして触れた。