白兎【骸盗アリス】 (ページ41)

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俺が持っている鈍器はただのトンカチだ。

ナイフなんて持ってたら銃刀法違反に引っかかるだろうし、扱い方を知らなかったら使い勝手が悪い。

その点トンカチは簡単だ。

持った手を振りかざして、降ろせばいい。

コントロールがつかない自分と、どこか傍観している自分。

怒りは人の原動力、という決まり文句を、今身をもって痛感する。

此奴の所為だ。

此奴さえいなければ、ママは…

コロシテヤル

「A！」

気づいたら、後ろに姉が居て、俺を抱き留めていた。

目の前には血を流してがくがく震えている男が居た。

『愛…』

愛「何やってんの⁉てか誰こいつ⁉不審者⁉」

姉は俺と男を順番に見た。

愛「もしかして…Aのお父さん？」

『こんな奴父親じゃない。』

気づいたら泣いていた。

泣くな。

泣いたってなにも変わらない。

…泣くなって…

愛「そうだね。」

姉は優しく笑った。

愛「こんな奴、父親を名乗る資格はない。」

その声の冷たさに、思わず身震いする。

愛「ということなので早く出てってください。警察呼びますよ？」

男は俺を見た。

俺が睨むと、男はふらふらと玄関に向かった。

愛「…有難う御座いました。Aをこの家に連れてきてくれて。」

姉が男を見ずに言った。

男が立ち止まる。

この世界に偶然はない。

全て、過去の積み重ね。

母親が死んだことも。

父親が捕まったことも。

この家に来るためには必要だった。

それに、こんな男でもいなければ産まれてきていなかった。

『私も…私を産んでくれて、有難う御座いました。』

男がまた歩き始めた。

愛も、もう止めなかった。