【HQ】▼幽霊マネな常識事項。

０６ ページ14

近づいてくるパタパタという軽いスリッパの音に比例して、心臓がどくどくと音を立てる。



その心音すら久しぶりだなと独り言ちながら、元の自分の体より一回りは大きい掌を握りしめた。




…と同時。





「ハーイ、今出ます…ってああ！月島君！」





無造作に束ねた黒髪。年相応の化粧っ気のなさにダサいTシャツ。



笑顔のその明るさと声音もひどく懐かしくて、言いようがない程温かくて。




「おか…っ」



お母さん。



口に出しかけて、今私は月島なんだと言葉を止める。


いきなり娘の同級生のしかも男子に「お母さん」なんて呼ばれたら恐怖以外の何物でもないだろう。


というか即通報だ体返すどころの騒ぎじゃない。





「…突然訪ねてしまい申し訳ありません。わたっ…Aの事で少々お話がしたくて」





できるだけ月島になりきったつもりで落ち着いて言い訳をすれば、お母さんは少し笑顔を曇らせた。



「どうぞ、上がって」






▽





「Aのお葬式ではありがとうね。お線香まで上げに来てくれて…。


あの子にあんなに男友達がいるなんて思ってなかったわ」



まああの子昔からオッサンみたいだったし女友達少なかったんだけどね、と話しながらお茶を差し出すお母さん。






素直に認めるべきか余計なお世話だよというべきか。

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