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「なぁ、バーテンさん」

「なんです、緋色さん」

「なんで貴方は、『緋色光』が偽名だと勘違いしてるんだ?」

「またその質問……。魔法使いは何でも知っているからです」

「…………要するに勘ってこと?」

「こんな物騒な世界に身を置くのなら、それが賢明だったのだろうと判断したまでです。他意はありません」

「……ふーん? 魔法使いって、案外ヘンなヤツなんだな」

バーテンさんは、よく己を魔法使いだと自称する。そして何故かは知らないが、彼を魔法使いと呼ぶとすごく喜ぶのだ。現に今もちょっと照れ臭そうに笑って生ハムを出してくれたし。ラッキーだ。バーテンさんがチョロいとも言う。
生ハムを一枚つまみながら、ふと思いついたことを聞いた。


「なあ、バーテンさんは何の魔法が使えるんだ? RPGみたいにどんなものでも使えるのか?」

「いい質問ですね、瞬間移動ですよ」

「わあ、いいなそれ!」

「でっしょう? まあそれだけなんですけどね、けど便利ですよとても。仕事疲れて『ああもう一歩も動きたくないな』ってときでも魔法使えば一瞬で家に帰れますもん。酔って知らないところにいつの間にか行ってるときもたまにありますが」

「なんて夢のない使い方なんだ……」

「そう言われましても、他に使い道が思い浮かばなかったので……。他にどんな使い方があるんです?」

「他って、そうだな……例えば、旅行に使ったりとか?」

「うーん、興味ないですね」

「えーそう? だって飛行機のチケット代も長いフライト時間もいらないんだぞ?」

「貴方こそ夢がないじゃないですか」

「バーテンさんよりマシだろ。それに世界一周旅行とか自分探しの旅だとか、昔憧れたりしなかったか? オレはなかったけど」

「なかったんですか」


生ハムとスコッチを楽しみながら、蓄音機から流れる音に耳を傾ける。何故この時間帯に人がいないのか聞けば、多分皆、てかこの店のピアニストすらこの店が六時オープンなのを知らずに八時にやって来るのだと言っていた。逆に何故オレがそれより前に来れたのかが分からないとも言っていた。開き直って、二時間の客がいない間に聞くレコードを楽しみにしているそうだ。オレは別にいいらしい。ちょっぴり優越感を感じたが、それでいいのか。

六→←四



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作者名:深海 | 作成日時:2022年9月24日 21時

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