司法に携わる彼らとの日常×2 (ページ9)

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｢ねえ、ちょっと｣ページ9

高校受験まで一ヶ月切ってるのでしばらく更新激遅になりますー。

｢これに名前書いてほしいんだけど｣
そう言って差し出されたのは、一枚の紙切れだった。

正直、何で私に?というのが私の最初の感想。
私は至って普通の新人巡査。特に警察局長様から一目置かれるほどこ目立った功績をあげたこともなければ、仕事を割り振られないような無能というわけでもない。本当に、何の特徴もないような平凡な人間。
だからこそ恐ろしい、何故警察局長である彼が私なんかに話しかけてきたのか。
彼の意図がくみ取れず恐る恐る目を合わせると、人の良い笑顔を投げかけられた。本当に良い笑顔。
その人形のように貼り付けられた笑みの裏には何か、大きな陰謀でも隠れているのではないかと思わず勘ぐってしまう。一応、失礼のないよう直ぐに視線は逸らしたのだけれど。
まあいいか、取りあえずペン、ペンと...あ。そうだ、今日持ってきてない。昨日インクが切れたから明日買えばいいかと思って、それで...忘れてた。
｢すみません。私、今日ペン持ってくるの忘れてしまって...他の人に｣
｢そ。なら、これ使って使って。ね｣
言葉を遮るようにして無理矢理握らされたのは、いかにも高級でございと主張するかのような、彼にお似合いの黒いペン。派手な装飾などは施されていないが、金に縁取られたキャップがその高貴さを助長させる。流石、良い物使ってるんだなあ...
というか、別に名前くらい他の人に書いてもらえばいいのに、どうしてそんなに私に拘るんだろう。私程度の人間がサインできるくらいの書類なら、そこまで重要な物でもないだろうに。
キャップを取ってペンを握る。手にした瞬間、ずっと昔から使っていたみたいに丁度良く手に収まったのが心地良い。たかがペン如きとはいえこんなにも違うものなんだなあと感心しながら、自分の名前をしっかりサインしようとして。目に入った。
｢...婚、姻届?｣
婚姻届。婚姻届?何で?何で婚姻届?
頭の中が?で覆い尽くされる。
｢局ちょ｣と問い詰めようとすると、ペンと紙はするり、途端に彼の手の中へ舞い戻る。
｢いやー。流石にそんなに上手くいかないよねえ。うんうん｣
｢次はもっと考えないとなあ｣と私の頭を数回撫でて立ち去る彼と、あまりの疲労感に押し潰されそうで膝から崩れ落ちてしまった私。
｢またねー｣と手を振られても、振り返す程の気力は今の私には微塵もなかった。