司法に携わる彼らとの日常×2 (ページ44)

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恋の盃を情に酌みし(龍一) ページ44

「···」
今、私に体をあずけ···というよりも、全体重を乗せ寄りかかってきていると形容したほうが正しいか。
彼の名前は成歩堂龍一。私の友人であり、命の恩人とも呼べる人間だ。
殺人事件の第一発見者となってしまったのがきっかけで被告人にされてしまった私を助けてくれたこの男。今は取り敢えずのお礼ということで、私の奢りだと気前の良いことを言い居酒屋に来ている。
まあ奢りとはいっても彼は天下の弁護士様だ、私の懐を思いやりある程度の自制はしてくれるだろう。と思っていた私の考えは砂糖菓子よりも甘かったようで、すっかり酔いの回ってしまった彼にダル絡みされ続けるという地獄のような時間を過ごしていたのだった。
「···重いから離れてっ!」
慣れない怒りを態度にしてみても彼の様子は変わらない。それどころか「あはは」なんてみっともないにやけ面を晒して更に体重をかけてくる。本当にやめてほしい。体幹を鍛えていなければ今頃、私は彼に押しつぶされてしまっていたところだろう。
「はあ···」
ため息を吐いてみても状況は変わらない。気分転換に、少しだらしないが頬杖をついてみる。うん、この体勢は少し楽かもしれない。多少行儀は悪いけれど、十数年の付き合いである彼の前だ。このくらい許してくれるだろう。
「ねえ」
「?、何?」
急な彼の問いかけに、何も意識をしていなかった私は全思考を取られる。照明が眩しい、反射で閉じてしまった片目をゆっくりと開ける。
「お礼とかないの?」
「何の?」
「弁護の」
「···今してるんじゃないの?」
「お礼が居酒屋の奢りだけって、何かアレじゃないか?」
アレって···まあ、確かにそうだけど。勿論依頼料とお菓子くらいは持って行くつもりだったけど、いざ面と向かって言われれば少し腹が立つ。
「後でちゃんとお金と菓子折り持ってくよ」
「今がいいなあ」
そんな、急に今お礼を寄越せだなんて言われても。刑務所から出てきたばかりで手持ちだってまだ用意していないのに。
でも、龍一からしたら理外の言い分というわけでもないもんなあ。こっちは助けられた身でしかないわけだし。店から出たらすぐにお金をおろす?でも、直接手渡しだなんて常識的にありえないし···