司法に携わる彼らとの日常×2 (ページ36)

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続きページ36

「ねえ」
「何?」
「何で来たの?彼女に怒られるんじゃない?」
「ちーちゃんがそんなことで怒るはずがないだろ」
にやにやと口の端を緩めて彼女のことを考える彼の表情は本当に幸せそう。その笑顔を引き出せるのが私だとどれほど良かっただろうか。
「それに」
「それに?」
「夢主の家に来たのはちーちゃんに言われたからだし」
龍一を私の家に寄越したのはちなみさんだったのか。
彼は、どんな訴えを聞いて私の家までやって来たんだろう。
「···なんて言われたの?」
「『最近、夢主ちゃんのお元気がないように思いませんか?私心配で···』って言われたから、『じゃあ、ぼくが明日夢主の様子を見てくるよ!ちーちゃんは心配しなくても大丈夫!』···っていう感じで」
最近、彼の話を聞くと頭痛がするようになってきた。龍一が様子を見に来てくれたのは確かに嬉しいけれど、それは彼女の発言に心を動かされただけであって私のことを思ってのことではない。
彼の中に、私はいないのだ。
ちなみさんが本気で私のことを心配してくれているのはわかった。けれども、今は彼女の何もかもが気に触る。
いい人なのは伝わるけれど、その善意こそが憎い。疎ましい。腹立たしい。
そしてそんなことを考えてしまう、自分のことも大嫌い。
「···で、何してるんだよ」
「はあ?」
突拍子の無い質問に二音で聞き返す。我ながら可愛くない返事。
「最初に来たとき質問しただろ?あれ、まだ答えもらってない」
「ああ···」
そういえば、家に入ってくるなり困惑の表情を見せてくれたんだっけ。
「何やってるの?」
「···恋愛、ゲーム?」
「それにしては女しか出てきてないけど」
意識をしていなかったというか、もはや無意識だったというか。私は男性向け恋愛ゲーム、もといギャルゲーをプレイしているようだった。
ステータスは軒並み普通、特筆すべき項目は芸術センスのみという至って普通の男子高校生の中の人間が私だ。
そのまま打ち込んだデフォルト名、マサシという平凡な名前が何故だか哀愁を誘う。
「マサシ、ねえ···」
「別にいいじゃん、名前くらい普通で」
「いや、そういう意味じゃ···マサシ、マサシかあ···」
ブツブツと主人公の名前を呟く彼、そんなに面白い名前でもないと思うのだけれど。