司法に携わる彼らとの日常×2 (ページ14)

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いずれ菖蒲か杜若ページ14

｢Aちゃん｣
彼女は、花のように愛らしい女性だった。

Aとあやめが恋仲になったのは雪の降りしきる師走の頃。Aは、とあるオカルト雑誌のライターであった。
先月話題になった葉桜院の霊媒法廷、世間一般にはさほど大きく取り上げられることはなかったが、これまで胡散臭い記事ばかりを取り上げインチキライターだと叩かれ続けてきたAにとってはまさに青天の霹靂。ここで動かねば雑誌自体の信用にも関わってくると葉桜院の取材におもむいた...のが四月の頭。
いくら大々的に報道されることがなかったとはいえ、一部のマニアの間で葉桜院宿泊の権利は争奪戦状態となり電話の回線もパンクしてしまったほど。中には葉桜院そのものではなく、そこに住む尼僧を目当てとする不遜極まりない輩も多数存在したらしい。
というわけで、カメラやノート、その他諸々を引っさげて葉桜院の宿泊客となったAは散々バカにしていた不遜極まりない輩と同じように『葉桜院あやめ』に一目惚れ。あやめという名に恥じぬ麗しい彼女にコツコツとアプローチを続け、上記のように十二月、晴れて恋人となった。
...のはいいとして。
最近、何というか、彼女の雰囲気が今までと少し変わったように感じられるのだ。
例えば、ふとした瞬間の仕草が以前よりどこか荒っぽい。最初は自分に心を許してくれるようになったのだろうかと純粋に喜んでいたが、足を組んで椅子に座るのにはいささか閉口した。普段の彼女ならば衣服が引っかからぬようきちんと身なりを整え、膝を閉じ、その上に手を軽く置いて座るというのに。
例えば、恋人としての行動。普段の彼女ならば少し肌が触れあうだけでも大きな瞳いっぱいに涙を浮かばせ恥じらっていたというのに、今の彼女は恥じらうどころかいたずらっぽく後ろから抱き締めてきたりもする。そればかりは悪いことではないのだが...違和感は拭えない。
例えば、彼女の笑顔をじっと見ていると、どこか不安な気持ちで満たされる。まるで自分の心の底を探られ、嘲笑われているような感じがするのだ。普段の彼女ならば雪のように白い肌に一点赤い花を咲かせ、誰もが安心するような聖母の笑みを見せてくれたというのに。
...というようなことがあり、Aの疑心は塵のように降り積もっていった。彼女は葉桜院あやめ、その人のはずなのに。きちんと愛すことのできない自分を腹立たしく思う。

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