おれじゃ、 ダメですか。更新停止。

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大粒の雨がフロントガラスを濁らせる。
普段なら気分は最低最悪。

(試合も負けたしAさんに見せれなかった)

俺の全てを。俺の生き方を。

しかし今日なぜかその最悪な気分を少し中和出来てるのは、60センチ程離れた助手席にAさんが居るから。


「あの、」
『ん？』
「つまんなかったですよね、試合」
『え？全然っ、なんで？』
「負けた試合なんて…」
『…………』


無言になってしまった。
気を使わせたかなと思った矢先、

(え、え？なに、なんで。え？)

シフトレバーに添えてた俺の手の甲に、Aさんの柔らかくて細い小さな手がそっと重なった。


『私はつまんなくなかったよ、今日の試合』
「そ、ですか…？」
『初めて生でサッカーの試合を見たの』
「はい、」
『柴崎さんの選手としての姿も初めて見たの』
「…はい」
『すごいすー……っごい、カッコ良かった！』
「ぇ…」


見てた、見てくれてた、俺の姿を。
サッカー選手として生きてる俺を。
人生賭けて戦う俺のこの仕事を。

(負けたのに、ださいのに。カッコ悪いのに)

Aさんは"カッコ良かった"と言った。


『また見に行かないと』
「次は…必ず勝ちますから」
『うん』
「あ、またチケット用意します」
『大丈夫大丈夫！今度は自分で買うから』
「そういう訳には」
『鹿島に応援したい選手が居ますのでっ』
「応援…したい、選手…ですか」


今日の試合は勝てた試合内容だった。
そこで少なからず活躍してた仲間は居た。

(……誰だろ、源？は違う。聖真…かもしれない)


『応援してますよ、柴崎岳選手』
「え、俺…」
『うんうんっ。それに、元気になるおまじない』
「おまじないですか…？」
『うちの母が小さい頃よくやってくれたの』


そう言って重ねた手を少し動かして見せた。


『また笑顔で試合しないとね』
「………………はいっ」
『サポーターが待ってるよ』
「……ですね」





そのサポーターの中にAさんは入ってますか？
俺への応援は馴染みの定食屋の娘さんとしてですか？

それとも、それとも、

少しぐらい勘違いしても良いですか？


「もう少しだけ、ドライブ付き合ってください」




ほんの少しで良いから、勘違いさせてください。
この短い時間の中だけでも。
60センチの距離を保ちながら。

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