第2話 一文字則宗 ページ2
「一文字則宗っ!」
「坊主、もう逃げ場はないぞ」
一文字則宗の言ったとおり、後は崩れそうな崖、前方には政府からの追っての一文字則宗がおり、逃げ場はない。
Aはこの状況を打開しようと必死で考えるが、策を考えるのは生憎不得意で、何かあったら力ずくで解決していた。
それに対し、清光は策を考えるのに長けていた。
だが今の清光は重傷で折れる寸前だ。
只、Aの脳裏には『終わった』という四文字しか浮かばなかった。
「これから、坊主等の主は処刑される」
「そんな…僕のせいで」
衝撃が身体に走る。
自分のせいで、自分を守ったばかりに、大切な人が死んでしまう。
その事実にAは泣いた。
「僕が主を殺したっ、僕のせいで!主は」
「泣くな坊主。僕だって、坊主等の主は死んでほしくない」
「じゃあなんで!」
「それが、僕に与えられた命だからだ。僕はこの命。坊主等を確保して折るのが、僕にとって最後の命だから、実行するしか出来ない」
一文字則宗は苦しそうな顔をしながら抜刀する。
Aはもう自分は折れるんだと理解し、目を瞑った。
だが衝撃は一向に来ず、目を開けると、一文字則宗は刀を地面に刺した。
「あぁ、つくづく僕は坊主等に弱いなぁ。坊主、寄れ」
一文字則宗からは敵意は感じなく、刀は離れているためAは警戒をしながらも近くに寄った。
「きゅ、急になに」
Aの視界いっぱいに一文字の胸が見える。
抱擁されたと理解したのに、そう時間は掛からなかった。
「まだこんなにも幼いのにな…二人は」
「一文字、則宗…?」
「僕の本丸はかつてぶらっく本丸でな。坊主等、加州清光と大和守安定を守ろうと必死で努めてきたが、僕が出陣をしている間に…折れていた」
「………多分」
「どうした坊主」
「多分、その本丸の僕達は一文字則宗にずっと守って貰えて嬉しかったと思うよ」
「なぜ分かる?」
「だって僕だから」
「うははは、ありがとな。坊主」
「…いいの?抱擁して、折らないの?」
「折る気が失せた、いや、僕には坊主等を折れない。だから、この世界から坊主等の存在を消すことにしよう」
「どういう」
「ありがとう坊主」
目の前に映った手鏡が急に光だし、余りの眩しさに目を瞑る。
光が消える頃には、一文字則宗の腕の中には誰も居なかった。
一文字則宗は空を見上げ、一粒の涙を溢した。
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「うははは。結局、一番弱いのは僕の方だったな…」
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作者名:百華夜 | 作成日時:2023年5月22日 18時