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第一章 音樂と文學 第一節 ページ5

新しい司書が此処にやって来て、2週間程が経った。最初は何も分からず、手取り足取り色んな奴らが教えていたが、2週間も働ければ多少は慣れたようで、眉のシワも少なくなってきている。

「はぁ……」

夕刻。夕陽が図書館の中をほんのり紅く染める。司書は、素朴なきつねうどんが乗ったお盆を机にそっと置き、食堂の隅の席でため息をついていた。影に隠れるように身を縮こませる彼は、なんだか小動物のようにも思える。これは話しかけるチャンス、と、俺は、司書の前の椅子を、露骨に音を立てて引く。
司書は顔を上げる。目が、あからさまに疲れたと訴えかけている。

「太宰、先生……」

「いいよ先生なんて、堅苦しいだろう」

そう言って俺は優しく笑ってみるが、返されたのは少しばかりのお辞儀と、馴れ馴れしいなコイツ、という目であって、なんとも、まだあまり好かれていないのだな、という感じがする。
持参した調味料をおもむろに牛丼に振りかける。割り箸を割り、ちょっと歪な形になった箸を持って、そっと手を合わせてから、タレがかかった艶のある肉と米を一緒に掴み、口に運んだ。甘辛なタレの絡まった柔らかい肉と米を噛んでやれば、そこから甘味が口内に広がる。なんとも不思議な食物である、たまに食べたくなるような、ちょっとした中毒性とも呼ぶべきものがこれにはあるように思った。
飯を食べ始めた俺を見て、なんでここに来た、なんて視線を俺に送りながら、司書がうどんを啜り出した。食堂に、箸の片っぽどうしが当たる音や、麺を啜る音、食器に箸の当たる音が静かに響く。
いつの間にか食べ終えてしまって、手持ち無沙汰になったので、ちょうどきつねあげを噛んでいる司書に話しかけてみる。

「なぁ、此処の暮らしには慣れたかい」

俺の問いかけに、司書はきつねあげを急いで飲み込むと、少し慌てるように答える。

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作者名:べーこんむしゃむしゃくん | 作成日時:2022年11月22日 13時

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