011 ページ11
.
振り返るとそれは淳太くんで。いつの間にか奥さん方の輪から抜けていたようだ。
「帰るで」
「あ、うん。神山くん、また」
キョトンとした神山くんが上の空のまま返事したのを確認した淳太くんは、私の手首を掴んだまま歩き出した。いつもは歩幅を合わせてくれるのに、今日はなんだか妙に早歩きだ。
「あの、淳太くん、淳太くん」
私が名前を呼ぶと、ぱっと手を離して、下を向いたまま一言謝った。
「淳太くん急にどうしたん」
「帰る時間やったし、俺これでも午後から予定あんねんで」
「神山くんバスあるって言ってた。私の家方面の」
助手席の車の扉に手をかけた淳太くんの動きが一瞬止まって、でもすぐに動いて「乗って」と言ってくる。私の発言は無視なのか。
「なんで嘘ついたん」
「乗って」
「嘘ついた理由教えて」
「…ええから乗って」
普段は落ち着いていて余裕のある淳太くんも、今はなんだか切羽詰まってるように見える。でも私が今知りたいと思ってることは絶対に教えないようだ。
「淳太くんが分からん」
私たちが幼馴染だってバレたら嫌なくせに自分はバレても平気だとか、神山くんをボランティアに誘ったのは淳太くんなのに一緒にいたら強引に連れ出すとか。
掴めない彼に出会った当時の私は惹かれていたけれど、今はなんだか追いつけなくて、疲弊してしまいそう。
「淳太くんのこと教えてや、肝心なことばっか言わんでさ…」
それが大人だって言うなら、私は大間違いだと思う。それってただの言い訳でしかないじゃない。
淳太くんが口を開きかけて、何かに気がついたのか、私を車側へ追い詰めて、右手で口を塞いだ。
「淳太さん、もう帰るの？」
「はい。この後も予定があるので」
残念がったボランティア団体の会長さんが、「気をつけて帰ってね」と笑顔で手を振り、どこかへ行ってしまった。ギリギリ唇に付かない手のひらが大きいなと今更ながら知る。
「Aがもっと俺のこと知ろうとしたら教える」
「え、なんやそれ。もう十分知ろうとしてるし！」
誠意が伝わってないのかと抗議したら、強引に助手席へ座らされた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 367人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
