小動物系男子と暮らしています。

#36 ページ36

「いらっしゃいませ〜」

そう言えば、ヌナは、心底驚いた顔してた。
まるで、幽霊でも見たかのような。

「え、スニョン、なんで？」
「だって、俺、ここのバイトだもん」
「……」

え、なんか、怒ってる？

「あの、ヌナ？」

俺の目の前まで歩み寄るヌナの顔色を伺えば、「バカ」と一言、睨まれた。

「…ごめん」
「…まぁ、いいよ。ちゃんと元気に、生きてたし」
「うん。元気、スニョンくんとっても元気」
「君、今バイト中ですよね」
「すんませーん」
ついはしゃいでしまった。ヌナにめちゃ冷静に諌められるのが、なんか懐かしい。

「ウォヌくんから、聞いたよ。スニョン、就活とか、学校とか忙しいからお休みしてたって。
やっぱり、就職、するの？」
「あ、ヌナ…あの、ううん。やっぱり就職しない」
「え…」
「ヌナが背中押してくれたから、おれ、頑張ることにした！ダンサーになるよ」
「本当に？」
「うん。実はさ、休んでる間、オーディション受けてたんだけど…
なんと！SHINeeのバックダンサーに受かったよ！」
「え…マジ？」
「大マジ！」

そう、これが言いたくて、決まったこの日に、無理やりバイト入れてもらった。
ヌナの、この顔が見たくて。

ポカーンと口開けて、驚いてるヌナ。

「ヌナ、もっと喜んでよ」
「あ…なんか信じられなくて…」
「ちょっと、おれより先に泣かないでよ」
「だって…ほんとに…夢みたい」

「ヌナ、笑ってよ」

誰もいないのをいいことに、カウンターを飛び出して、ヌナを思いっきり抱きしめた。
久しぶりのヌナは、やっぱりいい匂いがした。変わってない、大好きな匂い。


「ちょっとスニョ」
「あ、ごめん」

ヌナの涙を拭ってあげたら、「生意気」とまた睨まれた。でもそれ、なんか上目遣いみたいで可愛いだけだからね。



「ちゃんと相談もせずに、ごめん。
でも、あんときは俺、自信なくて、ちゃんと社会人になってヌナに追いつきたいとか、思ってて…
だけど、ヌナがダンス頑張って欲しいって言ってくれてるって聞いて、嬉しかった。
大きな舞台で踊るところ、見に来てよ！」



ちょっと前まであんなに落ち込んでたのに、ヌナの言葉一つで、変われた。
ほんと、ヌナには振り回されっぱなしだなぁ。
だけど、もう背伸びしない。ヌナが他の誰かのものでも、構わない。
ハム太郎のクォン・スニョンで、ヌナと前みたいに、笑っていられたらいい。

そんな気持ちになれたから、やっと、ヌナの前に立てたんだ。

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