オリキャラ短編集 2 (ページ45)

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静寂の邂逅 3 ページ45

「この小さな店で働いているの?」

夫人が話しかけてきた。

「ええ...もう、3年もこのホールスタッフを勤めているんです」

思わず個人的な情報を言ってしまった事に、しまったと後悔したが、夫妻の顔に変化は見られなかった。親しみやすい顔はそのままだ。

「3年か...長いようで短いその期間で、失敗もあっただろう」

「ええ...」

数え切れない程あった。料理を運ぶ途中、来客にぶつかってその服を汚してしまったり、料理に根も葉もない苦情を申し立てる客もいた。同僚達に多くの迷惑をかけた事もあった。名は体を表すというか、ほんの少しの事で泣き出してしまった事もあった。その情けない姿を見た誰もが、シシィを頼りないと馬鹿にしている事も。彼自身、分かりきっていた。

「でもね...失敗してもいいのよ」

夫人はそう言った。それに夫も同意して、話を繋げた。

「最初から完璧な人がいないように、いつまでも失敗ばかりする人なんていない。問題なのは、自分は完璧だと自惚れる人と、何をやってもダメだと悟っている人。そこにある落とし穴と可能性に、いつ気付くかだ。気が付かないまま進むと、最後はつまらない人生になる」

「......」

黙って聴いているシシィ。

「お前はまだ若い。これから先も、予測出来ない出来事や驚きに会うだろうが、それに逃げずに向き合うんだ。シシィ」

驚きのあまり、まじまじと見つめ返した。

「何故、私の名前を...?」

男は、からかいに成功した、いたずら坊主のように微笑んだ。

「ははは、『シシィ』は『女々しい』というだろう?そういった意味で呼んだだけだったが...まさかお前は、シシィという本当の名前なのか...」

「はい...いかにも」

女は言った。

「もう、ルカ...。あなたったら、時々人をからかうのはよしなさいな...」

男の名前はルカというようだ。やはりどこかで、聴いた事がある名前だ。2人の姿を見るたびに、漠然とした何かが形作られていった。進展しようとしたその時、軽食が運ばれた。

「貴方も食べなさい」

夫人に言われ、シシィは更に驚きを覚えた。

「いえ...私は」

「この時の為に、私達は頼んだのよ。貴方と一緒に食べる為にね」

3人分の食事を頼んでいたのは、自分を誘う為だったのか。てっきり、後で来る人がいると思っていたが。