オリキャラ短編集 2 (ページ43)

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静寂の邂逅 1 ページ43

「ふぅ...」

今日も仕事を終えた。ウェイターのシシィは、夜空を見上げた。排気ガスにまみれた空気特有の、濁った黄灰色の雲の一片が、満月をベールで隠した。澄んだ月が、また汚れていく。小さな真珠のような星のすれすれを、飛行機が飛んでいく。それが戦闘機にしろ、星達はそれらを侵略者か迷惑者だと思って眉根を寄せながら、夜空を瞬くだろう。昔の人から見ても、夜空のロマンスを壊していると憤慨するに違いない。ラストオーダーをする客は、もういないと思っていた。

「もし」

呼び止められて振り向くと、1組の男女が向かい合って座っていた。どちらもオコジョで、身なりはそれなりに整っている。いつの間に入ってきたのだろうか。目を白黒させるシシィに気付いたのか、男が口を開いた。濃い緑色のオコジョは、薄い度の眼鏡をかけていた。

「もう、店は終わりなのか?だとしたら、出て行くが」

横柄な感じは全くない良く通る声で、どこか懐かしさを感じさせた。すぐに応えるシシィ。

「あ、いえ...ラストオーダーは30分前ですので、間に合いますよ。お決まりですか?」

「あら...よかったわ」

濃い青色のオコジョは微笑んだ。やはり、懐かしさを感じさせる。胸の奥が変な感じになる。気持ち悪いのではなく、言葉で例えられない何かだった。そして、2人の振る舞いからして、夫妻だと分かった。

「かしこまりました。それでは、ごゆっくり」

注文の品を書いた紙を同僚に渡すと、男が声をかけてきた。

「よろしければ、私達の相手をしてくれないか?」

「え...?」

「話し相手になってくれないか?」

いきなりの事で戸惑ったが、断りを入れる事にした。夫妻は残念そうな顔をしなかった。この種の職業なら、当然の事だと微笑んだ。何だか、申し訳ない気持ちになった。親しく申してきた人を断るのは、電車で読んだ雑誌や新聞を、なんの躊躇いもなく網棚や座席に置いて捨てると同じだ。折角情報を提供させた冊子を、ありがたいとも思わず捨て去るのは、礼儀が適っていない。自然と、彼は口を開いた。

「責任者とリーダーに、話をしてみましょう。少々、お待ち下さい」

数分も要したが、夫妻と会話をする事の許しを得る事が出来た。幸い、3人掛けのテーブルだったので、席に困る事はなかった。