HTF小話集と短編集！！そのⅤ (ページ36)

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赤いドレスのシンデレラ 1 ページ36

時は今から数百年も前。とある国の雑踏の波の中に、1人のみすぼらしいホームレスが座っていた。全身を黒いローブに覆われていて、歳も年齢も判別出来ない。だが金を入れる入れ物も無ければ、食料を求めるよう両手を差し出す素振りさえも見せなかった。ただ動かず触っているだけだ。他人に危害を加える事は無いとはいえ、1人の警官が注意に向かった。

トゥーシー「そこのホームレスさん。居場所が無いのなら、一度警察署に来て居住区の手配でもしようか?」

すると、今まで微動だにしなかった相手は僅かに首を上げるが、それでも顔は見えなかった。

「ああ...やっと声をかけてくれたのですね」

若く中性的な声だった。待ち望んでいたような口振りに警官は訊ねる。

トゥーシー「どういう意味?」

「昔話を聴いてくれませんか?」

何を言っているのだ、このホームレスは。警官相手に昔話なんて。なるべく早く連れて行きたかったのでこう言った。

トゥーシー「駄目」

「ふふふ、何故シンデレラは赤いドレスを着る事がほとんどないか、ご存知ですか?」

すっかり呆れた。元作家なのだろうかこの変わり者は。しかし署に早めに帰っても、待っているのは帳簿の整理という退屈な仕事だ。その時間に欠伸をする位ならば、気の済むまで聴いてやろうか。

トゥーシー「はぁ...じゃあ最後まで聴くから、終わったら署に行こう」

同意を得た相手は、哀調と静かさの混ざった声で話を始めた。

「昔々、今から数百年も前の、この街に起こった話です...」

その街に、一軒の仕立て屋がありました。数ある中の小さな仕立て屋です。そこに1人の少女が働いていました。赤いヤマアラシのフレイキーです。

フレイキー「はぁ...今日もお客さん、来なかったなぁ」

フレイキーは腕は良い方だったのですが、店はあまり繁盛しませんでした。男尊女卑の強い世界で、しかも女1人なのに店を持つという偉業は、この街に住む男達の嫉妬とプライドを逆撫でしたらしく、有る事無い事を街の人達に言いふらすという、姑息な手段をした結果でした。裁縫を誰かの役に立ちたいと始めたのに。

カドルス「聞いた?ラミーお嬢様のお父上が、再婚するらしいよ。しかも子連れ同士で」

ランピー「え?初めて聞いた」

買い物中のうわさが小耳に挟んだ彼女は、こう呟いたそうです。

フレイキー「僕には関係無いよね...」