HTF小話集と短編集！！そのⅤ (ページ21)

今日:3 hit、昨日:13 hit、合計:7,043 hit

ハロウィンのレクイエム 2 ページ21

不自然なまでに静かな院内。まるで音が他に漏れないように魔法がかけられたようだ。覚束ない足取りで、ある病室に向かうポップ。そして、その扉を開いた。誰もいない。窓だけが開いていて、死を誘うように風が吹いている。

ポップ「...今から行くよ...」

誰に言われた訳ではないのに、そう言う。フラフラと歩き、虚ろな目で窓から身を乗り出そうとした。

ディスコ「おい‼」

突然の声に振り向く前に、取り押さえられた。床に崩れ落ち、赤子がぐずり始める。

ディスコ「おい‼何しているんだ‼」

しかし、その声は耳に入らなかったのか、また立ち上がり窓から身を乗り出そうとする。

ディスコ「どうしたんだよ...!」

本当は嫌なのだが、致し方がない。実力行使だ。優男の友人の頬を思いっきり殴った。それだけでなく、脳天にも拳を下ろす。

ポップ「⁉...え?...あ、あ?」

正気に戻ったような、拍子抜けの声が出る。

ディスコ「おい、解るか⁉俺だ!」

ディスコから肩を揺さ振られ、戸惑いを浮かべるポップ。

ポップ「わ、私...なんで、ここに...?病院...?」

ディスコ「...そうだ。あんたの奥さんが入院してた...」

それを聴いて、男は青ざめる。

ポップ「どうしてこんな場所に...⁉カブを連れて?...早く出なければ...!」

ディスコ「え?お前...」

その時だった。

『...逃げるの?』

冷たい声が窓の中に入ってくる。2人は声の主を視認して血の気が引いた。そこには、若く血の気の無い女がいた。高い階にいるのに、浮いているようにそこにいた。病衣をまとった彼女の目は、怒りに染まっていた。そう、彼女こそ、この男の妻だ。

『なんで、貴方が生きて私は死ぬの...?』

ポップ「頼む、許してくれ!あの事を、あの時僕は」

妻は怒りの形相で叫ぶ。

『貴方も死ねばいいのよおおおおおおお‼』

そして、息子を抱いた夫を襲いかかった。亡き妻の憎悪が父子を包み込む。

ポップ「う、うわああああ‼」

カブ「わああああああん‼」

ねっとりした不快な熱気がまとわりつく。このままいると、灼かれそうだ。

ディスコ「ポップ‼...くそっ!」

友人は、何とか追い払おうとした。早くしなければ赤子まで死ぬ。

ディスコ「離れろ!こいつから離れろ!」

霧に包まれながら、ポップはあの事を思い出していた。半年前、ここに入院していた愛妻の事を。