宇宙と鳳凰の邂逅

10，Steal your heart The Phantom ページ10

心の怪盗団。
悪人の心を盗み、改心させる集団。
手口は一切不明。

初めはそんなの夢物語とか、妄想オチだとか、怪盗団の存在そのものすら認識されていなかったのに、認識されたとしても犯罪だろうと世論は言っていたのに、次々と大物が改心されて行く様がマスメディアによって報告されると途端に怪盗団がんばれとか、次の獲物はよとか、手のひらを返したように媚びる。

自分が改心されるかもしれないという恐怖、悪人を裁くというとても面倒な役を押し付けられるという怠惰。
それを見て、いつも思うのだ。
嗚呼、人間は本当に汚いなと。

薄汚れた大衆こそ、改心させるべき対象。
その考えは果たして怪盗団に有るのか。

奥底でいつ死んでも良いと思っている下衆な大衆。
今、自身たちがこの地面を踏みしめているのはただ一人の少年のおかげということも知らない無知な者。
その少年を苦しめているのは他でもない大衆であることを認識していない愚者。

愚者は愚者に先導され、愚者として捨てられる。
嗚呼、人間という生き物は本当に穢れている。

出された珈琲を飲みながら、そんなことをつらつらと考える。
珈琲の香りが大気に同化していく。
珈琲という人間が産み出した穢れなき黒の嗜好が、悪意に塗れる黒い大気へ同化していく。
同じ黒なのに、ここまで色は違うものなのか。

目を見開いていなければ、真実は視えない。
しかし大衆は、目を開くことを放棄し、目の前の事実を真実としてしか受け入れない。それほどまでに、怠惰な生き物であるから。
うわべでは個人とされているけれど、内ではただただ、神に支配されることを願っている。

これが、大衆の真実。

珈琲と共に出されたカレーを口にしながら、そんなことをつらつらと考える。
カレーの香りが大気に同化していく。
しかし、それは大気の流れに抗い、匂いというものをこの喫茶店に充満させる。
大衆皆が、珈琲のように真実を霧で隠すのではなく、カレーのように霧を切り払うような存在になれば良いのに。

悪意のある介入により、大切なひとを何処とも知らない場所へ飛ばされてしまった。
嗚呼、人間という生き物は本当に無力だ。


さて、怪盗団は今の話を聞いてどう思ったのだろうか。
せっかく見つけた新たな愚者、そう簡単に手放しはしない。とことん利用して、悪意の塊、即ち大衆を改心させ、頑なな彼の心を改心して頂きたい。

願わくば、彼が再び生きられるような、そんな世を。

Shadow workers
Aigis

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