吠舞羅のお姫様 (ページ27)

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カタカタカタ…とテープが回る音が静かなバーの中に響く。

多々良《4月1日16時30分》

出雲《…なんやそのけったいな荷物は》

カメラ越しに聞こえた多々良の声の後に出雲の声が聞こえてきて、スクリーンに映ったのはエリックを背負った藤島の姿。
私と華奈はカウンターに座りながらスクリーンを見つめる。

藤島「それ、おまえがここに来た時のか。…もう1年半以上になるんだな」

あの時の私は、高校生だったよねぇ。
懐かしい。

エリック「……いっぱい撮ってんね…十束さん」

エリックはスクリーンを見ながらそう呟いた。
出雲が箱の中に入ってるテープを見ながらエリックの言葉に応える。

出雲「あいつの多趣味のせいでいろいろ物が増えたけど、そん中でもやっぱり映像フィルムが一番多いんや」

華奈「……こんなのばっかり残しちゃってね」

華奈が静かな声でそう言った。
だがそれは、静かなバーの中には大きく響く。
みんながスクリーンを見る。
アンナもカメラが置いてあるテーブルの隣に座ってじっとスクリーンを見ていた。
エリックからぐすっと涙を啜る音が聞こえて来て、すぐに八田ちゃんがパシンとエリックの頭を叩く。

八田「ジメジメすんじゃねえ。その前にオレらにはやることがあんだろ!!」

『華奈…』

華奈「あいよ」

八田ちゃんの言葉の後すぐに華奈を呼ぶと、華奈は立ち上がってスクリーンを一瞥してから吠舞羅の皆を振り返った。

華奈「…行くよ」

華奈のその一言にみんなが頷いた。
そして誰もいなくなったバーに、カタカタ…と静かに動くテープの音だけが響く。
アンナはじっとスクリーンを見続けた。
出雲は煙草を吸い、私は紅茶を啜る。

アンナ「…映像、たくさんあるのに、タタラはいないね」

『全部、多々良が撮ってたからね。…思い出残すとか言ってたくせに……バカね』

視線を落としてそう言った私に、出雲はくしゃりと一つ頭を撫でてくれた。
多々良がいたあの楽しかった時間には……もう、戻れない。