*423*彼の昔の話 ページ6
「…それで?確か、天月くんがしゃむくんと会ったのは中学校の頃だよね」
店長の言葉に、天月くんはこくりと頷く。
「うん。中学一年生の頃、しゃむくんと会った。…であった頃のしゃむくんは、そうだな。…まるで、人形みたいだったよ」
『人形…』
私が呟くと、96ちゃんがひざの上でぎゅっと手を握ったのがわかった。
―…人形のような、じぶん。
96ちゃんにも思い当たるときが、あったのだろうか。
「感情がまるで無いみたいに、人のことばっかり考えて行動するの。しゃむくんの望みとか、希望とかは全然無いみたいだった。いつもびくびくして、おどおどして、滅多に喋らない。それなのに成績はいい。
日の光なんて知らないような真っ白な肌と、あの綺麗な顔でしょ。正直、少し不気味だった。
初めて話したのは、…そうだな、グループ活動のときだっけ」
天月くんの瞳に、過去を懐かしむような優しい光がふっと過ぎる。
その一瞬で、天月くんが、しゃむくんを大切に思っているのが伝わった。
そのしゃむくんが今ここにいなくて、彼の事情を、ひとりで話している。
それは、どれほど辛いことだろう。
きゅっと胸の奥が痛んだ。
天月くんは、優しい声色のまま話す。
「しゃむくんには、裏表が無かった。だからかな、俺はしゃむくんと、親しくなりたいと強く思ったよ。
そこからは、もうしゃむくんの個性を引き出すことに自分の力を費やした気がするなぁ。勉強も同じくらいできたから一緒の高校に入って、演劇部に入った。…そのときに、しゃむくんから聞いたんだ。しゃむくんの、素性の話。しゃむくんの、お母さんとお父さんの話。
―…それと、“演劇部をやめろ”って言ったお父さんに対しての、しゃむくんの初めての反抗の話」
クスクス、と天月くんが笑った。
淡々と話しているけれど、そのときの天月くんはどれだけ嬉しかったことだろう。
人形のようだった親友が、初めてお父さんに反抗した。
“フツウ”なのかもしれないけれど、それはしゃむくんに限っては普通ではなかった。
記念すべき快挙、だったんだ。
「結局、しゃむくんは演劇のコンクールとかに出ることは禁止されちゃったけど、部活自体は辞めさせられずにすんだよ。…でも、コンクールに出ないってことで引退も早くて。
その時間をどう埋めようか考えてるしゃむくんに、俺が言ったんだ。
“じゃあ歌えば?”って」
―…そうか。
しゃむくんは、だから歌い手になったんだ。
358人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
水鎖。 - シェアハウスずっと読んでます…!!ストーリーや時間軸がちゃんとしてて読みやすいし、何よりキャラクターの個性がそれぞれ萌えて面白いですっ!!アイコンなんですが、Twitterアイコンに利用させてもらってもよろしいでしょうか…!? (2015年2月1日 22時) (レス) id: 9c55b788b9 (このIDを非表示/違反報告)
BELL - HQの同人誌<黒研>なら4冊持ってます。及川攻めなら2冊出てますよ♪ (2015年1月12日 16時) (レス) id: 70d416ebac (このIDを非表示/違反報告)
青空バード - わー、終わってほしくないです… (2014年12月7日 17時) (レス) id: 37a6055bcc (このIDを非表示/違反報告)
水滴(プロフ) - べっ別にむしろ15までいってほしいとかそんなことめっちゃ思ってるんだからね!() (2014年12月6日 22時) (レス) id: 203b1aa01e (このIDを非表示/違反報告)
白猫ナル@月山(プロフ) - さやえんどうさん» レスありがとうございまーす!数学のテスト死にました!←無理はしてないですよー!明日献上できたら献上しに来ますね!もう少し遅れるかもしれませんが… (2014年12月6日 20時) (レス) id: 4f80e5a98d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ