*456*できそこないの嘘と笑顔 ページ45
「…ばくん、蒼葉くん!」
「…っ、」
名前を呼ばれて、びくりと目線をそちらに向けた。
隣の席の菜野旬は、やけに絡んでくる。
…正直、鬱陶しいったらない。
人気者は人気者らしく教室の中心にいればいいのに。
そんな俺に気づく様子もなく、この人気者は俺に笑顔で話しかけるのだ。
「お弁当、一緒に食べよ?」
「…え、あ、」
――…お弁当。
その言葉を思い出した瞬間、思考が、口が、固まったのを感じた。
思い出すのは、今朝の出来事。
朝起きると、リビングが荒れていた。
母さんは俺がリビングに入ってきても、ソファに座ったまま呆然としていて。
こちらに視線を一度も向けることは、なかった。
当然弁当は、無い。
けれど、どうせ学校に行っても一緒に食べる友達なんていないから平気かな、なんて。
適当に紛れていれば先生にもバレない。そう、思っていたのに。
「…蒼葉くん?」
「…ごめ、食欲、なくて」
口がカラカラに乾く。
笑おうとしたら、ヒュッ、喉がそう音をたてた。
―…笑えて、いない。
ひび割れたへたくそな笑顔を顔に貼り付けた俺は、この人気者の目にどううつっているのだろう。
ああ、けれど、きっとこのまま「そうなんだー!」なんて笑って離れていくんだろう。
俺がとっくに忘れた、ほんとの笑顔を浮かべて。
――…しかし。
「…蒼葉くん、俺実は授業中に早弁したんだよね」
「は…?」
何を言っているんだこいつは。
1時間目から4時間目まで、ずっと教科書を熱心に見ていたくせに。
先生に当てられてハキハキと答えて、教室の注目を集めていたくせに。
何を。
「だからお腹いっぱいなの。ほんとに満腹すぎて死にそう」
「え…いや、あの」
「だから!あの、俺のお弁当はんぶんこしない?」
そう小首を傾げた転校生は、持っていた弁当箱を差し出す。
…“早弁した”って言ってるのに弁当箱差し出すのかよ。
俺に同情したのかもしれない、またはただの気まぐれか。
けれど、そのへたくそな―…おれの出来損ないの笑顔より格段にへたくそな―…、そんな嘘は、この転校生が何故人気なのかを裏付ける確かな証拠だった。
同情は嫌いだった。
「可哀想」とか、「なんとかしてあげたい」とか。
そんな押し付けがましい厚意が、大嫌いだった。
けれど、この転校生―…、
“菜野旬”の厚意は、押し付けがましくなく、心地よく軽かった。
「…わかったよ」
頷いたら、菜野旬はこの上なく嬉しそうに笑った。
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水鎖。 - シェアハウスずっと読んでます…!!ストーリーや時間軸がちゃんとしてて読みやすいし、何よりキャラクターの個性がそれぞれ萌えて面白いですっ!!アイコンなんですが、Twitterアイコンに利用させてもらってもよろしいでしょうか…!? (2015年2月1日 22時) (レス) id: 9c55b788b9 (このIDを非表示/違反報告)
BELL - HQの同人誌<黒研>なら4冊持ってます。及川攻めなら2冊出てますよ♪ (2015年1月12日 16時) (レス) id: 70d416ebac (このIDを非表示/違反報告)
青空バード - わー、終わってほしくないです… (2014年12月7日 17時) (レス) id: 37a6055bcc (このIDを非表示/違反報告)
水滴(プロフ) - べっ別にむしろ15までいってほしいとかそんなことめっちゃ思ってるんだからね!() (2014年12月6日 22時) (レス) id: 203b1aa01e (このIDを非表示/違反報告)
白猫ナル@月山(プロフ) - さやえんどうさん» レスありがとうございまーす!数学のテスト死にました!←無理はしてないですよー!明日献上できたら献上しに来ますね!もう少し遅れるかもしれませんが… (2014年12月6日 20時) (レス) id: 4f80e5a98d (このIDを非表示/違反報告)
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