＊４５５＊頬を伝って ページ44
「夕飯、イワシの唐揚げにしたわ。好きよね」
「あ…う、ん」
違うよ、母さん。
イワシの唐揚げが好きなのはお姉ちゃんだよ。俺じゃない。
頭の隅っこで誰かが訴えたけれど、そんな声はすぐに消えて、俺は頷いていた。
母さんは力なく微笑む。
――…これでいいんだ、これで。
俺が何もいわなければ、従順な息子でいれば、母さんの負担を減らせる。
少しでも母さんの笑顔が見れるなら、それでいい。
「勉強してくる」
「ええ」
母さんにそう言い、自分の部屋へと向かった。
そこしか居場所が無いから。
そこだけが、俺の場所だから。
＊
「ごちそうさまでした」
空の皿を前に手を合わせると、母さんはハッと見ていた写真から顔をあげた。
うつっているのは、笑顔のお姉ちゃん。
俺は笑顔で皿をさげた。
いつの間にか張り付いた笑顔、今更取れなんて無理な話だ。
「お風呂はいってるから―…」
――…そう、母さんが言いかけたときだった。
ガチャ。
この時間には滅多にしないはずの音がなった。
それは、リビングの扉が開く音。
そして、ひと波乱の幕開け。
母さんの表情が、目に見えて凍った。
機械のように首をまわして、目を見開いたまま必死に口角だけを上げる。
「…お帰りなさい、あなた」
入ってきた父さんは母さんに見向きもせず、私服姿で茶封筒に入った札束を食卓に置く。
そして、そこでやっとチラリと母さんを一瞥して。
「…これ、今月の分だから」
「…はい。あの、夕飯、食べるの？今日はいわしの唐揚げで―…」
そこまで言ったところで、母さんに父さんから鋭い視線が向けられた。
ビクリ、母さんは身を震わせる。
「べんきょ、…して、くる」
蚊の鳴くような声で俺はそう言い、リビングの扉から出て行った。
父さんの視線は、俺には一切向けられなかった。
―…扉を後ろ手で閉めた刹那、母さんの押し殺したような悲鳴と何かが割れる音がした。
俺は部屋まで駆けていって、全てを閉じた。
目を、耳を、口を。
息が苦しくなる。なんでこんなに胸がつかえたような気がするのか、分からない。
はやく、早く。
違うことを、楽しいことを考えよう。
目を閉じたら全部あった。
お姉ちゃんも、母さんも父さんも笑っていた。
「蒼葉」
名前を呼ばれて、笑顔で駆け寄った。
ああ、両親に最後に名前を呼ばれたのはいつだったかな。
もうそれも、思い出せないや。
頬を伝った感情の名前も、もう。
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水鎖。 - シェアハウスずっと読んでます…!!ストーリーや時間軸がちゃんとしてて読みやすいし、何よりキャラクターの個性がそれぞれ萌えて面白いですっ!!アイコンなんですが、Twitterアイコンに利用させてもらってもよろしいでしょうか…!? (2015年2月1日 22時) (
レス) id: 9c55b788b9 (このIDを非表示/違反報告)
BELL - HQの同人誌<黒研>なら4冊持ってます。及川攻めなら2冊出てますよ♪ (2015年1月12日 16時) (レス) id: 70d416ebac (このIDを非表示/違反報告)
青空バード - わー、終わってほしくないです… (2014年12月7日 17時) (レス) id: 37a6055bcc (このIDを非表示/違反報告)
水滴(プロフ) - べっ別にむしろ15までいってほしいとかそんなことめっちゃ思ってるんだからね！() (2014年12月6日 22時) (レス) id: 203b1aa01e (このIDを非表示/違反報告)
白猫ナル@月山(プロフ) - さやえんどうさん» レスありがとうございまーす！数学のテスト死にました！←無理はしてないですよー！明日献上できたら献上しに来ますね！もう少し遅れるかもしれませんが… (2014年12月6日 20時) (レス) id: 4f80e5a98d (このIDを非表示/違反報告)
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