秘書ってペットじゃないの、知ってます？【夏油傑】

1・策士は一体だれだ ページ1

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『ねぇA、あんたさ
　うちの専務の秘書やってくんない？』


細い指でタバコを持つ彼女は息をするかのようにそう告げた。


「‥‥‥‥‥‥はああ？」



　 ◇◇◇




今日は華金！ノー残業ばんざい！と言うことで私は同期の家入硝子と一緒に馴染みの居酒屋へきている。ビールを飲みながら一週間の仕事の愚痴を話していたら突然あ、そーだとぶっ込まれたのが冒頭の会話だ。


あ、そーだで思い出す内容なのか？人事ってこう、もうちょっと色んな手続を踏むものでは？そして秘書って、秘書ってあんた！礼儀作法もテーブルマナーも何も知らない私に何いってんの？という意味を込めての、あの返事だ。


目の前に座る同期の硝子は今まさに、社長付きの秘書だ。秘書って辞書で引いたら出てきそうなほんとそんなタイプ。スラッとした美人さんで人前では滅多に笑わないからついたあだ名はクールビューティ。男性社員がそう呼んでた。
真顔で見つめられると何もしてないのに謝っちゃうからね私。怒るとくそ怖いんだよほんと。


かたや私は一般職の受付係。そんなパンピーな私に務まる話じゃないでしょうに。頭よくないし、やった事ないし、ツンと澄ました態度とれないし、男を虫ケラのように見れないし、そこまで言って『あんた私の事なんだと思ってるんだ』とヒールで突つかれた。あ、痛いです。


『専務付きの秘書がさ、胃悪くして入院したんだよ。あんのくそ伊地知‥』とタバコの火を押し消す。え、胃を悪くってあんた、そんなパワハラキメるような上司の元へ行かせようとしてんのかい？正気かい？


人事には秘書室から話通すからさ、親友の頼みだと思って引き受けてくんない？と首をかしげ少し悩ましげに微笑む彼女にノーが言える日本人が果たしているのか。いないな(硝子ラブ)
今日は奢るからって言うセリフに後押しされて決心したってわけじゃないからね。

サポートしてよね、と言うと『当たり前だ』と言う男前な彼女に惚れ直す。トイレ行ってくる、と席を立ったAを見送り息を吐く。


『ふふ、チョロいなぁAは‥』


そんな所が可愛いんだけどな、と思いながらスマホをいじりメッセージを送信。


“作戦成功。２カートンな”




　 ◇◇◇




場所は変わり都内某所タワマン高層階。届いたメッセージにニヤリと口角をあげる男が一人。


『ふふっ‥楽しくなりそうだ』




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