34日目 ページ34
.
Aは極度の緊張で口から心臓がまろび出そうだった。
けれども今を逃してしまえばまた、
あの心地よい温もりにいつ触れられるのかわからない焦りで冷静ではいられなかったのだから仕方ない、と自分に言い聞かせて、もつれる足を必死に動かし大きな背中に着いていく。
昨日も、一昨日も。
夏油の力を借りずとも眠れる事はできている。
一人で眠ることが出来るようになった今、彼を訪ねて行くことも、彼に部屋に来てもらう理由もなくなってしまった事に気づいたのは昨日のことだった。
いつでも頼っていいよ、と夏油の微笑む顔と体温が恋しくて、つい彼のジャージの匂いを嗅いでしまったあの日、
罪悪感と比例するように、例えようのない胸の締めつけが確かにAは気持ちがよかったのだった。
ついに零してしまったお願いは夏油の耳にどう届いただろうか。
こんな、はしたないお願いをしてどう思われるだろうか…
そんな事を考えているうちに辿り着いたドアの前。
入っていい?そう聞きながら握られる自室の小さなドアノブを見つめながらコクンと頷く。開かれた隙間から月明かりが部屋へと射しこむのを眺めていると
突然に掴まれた手に驚く間もなくAは真っ暗な部屋の中を夏油に導かれるまま進んだ。
「あの、電気をっ」
『必要ない』
立ち止まった夏油は振り向くと手を離した。
薄闇に浮かぶシルエットはいつかのように腕を大きく広げていた。
『Aが欲しかったもの、あげる』
「へ、……ぁ」
『するんでしょ、ハグ』
「あ、……うん」
視覚が機能しないのは夏油も同じだろう、とAは茹だっている顔の熱さも隠せるこの暗闇に少しだけ気が大きくなる。
Aは躊躇うことなく踏み出す。大きな胸に顔を寄せ、教えられたように夏油の腰に腕を回して分厚い胸板に頭を任せると、頭上から少し困ったような声が落ちてくる。
『随分と大胆だ』
「……だって、こうするって」
『うん、ちゃんと覚えてて偉いね』
よしよしと頭を往復する手のひらが心地よくてAは目を瞑ってその波を享受した。
真っ暗闇ではAの真っ赤に染まる耳も頬も、見えない見えない。
真っ暗闇では夏油の烈情に昂ぶり歪みきった真黒な瞳もまた、見えない見えない。
.
728人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
すみっことかげ(プロフ) - ココナッツさん» 表情は、意識しすぎるあまり同じ顔になりながら書いていることに最近気づきました。笑 更新を楽しみにしてくれてる人がいることが励みです♡続編も頑張ります〜! (2022年10月19日 19時) (レス) id: 836ec41816 (このIDを非表示/違反報告)
ココナッツ(プロフ) - すみっことかげさん» わわわっお返事頂いてるの気付くの遅れてしまったぁぁ…そして続きをありがとうございます!!夏油さんの表情の変化←すみっことかげ様の言葉遣いが上手すぎていつも惹き込まれてます笑 そうしましょう(うん?) (2022年10月19日 17時) (レス) @page49 id: a1f85287cc (このIDを非表示/違反報告)
すみっことかげ(プロフ) - ココナッツさん» 秒レス失礼します!進行形で書いてます。笑 残された夏油くんは今何を思うのか…。わしらモブも木の陰から見守りやしょうぜ(え) (2022年10月18日 12時) (レス) @page48 id: 836ec41816 (このIDを非表示/違反報告)
ココナッツ(プロフ) - さ…最終話……??はぅ…寂しい気持ちがありますけど最後まで夏油さんと夢主ちゃんの行く末を見守らせていただきます…!!!(どこから目線…すみません🙇🏻) (2022年10月18日 12時) (レス) @page48 id: 160792ee1b (このIDを非表示/違反報告)
ココナッツ(プロフ) - すみっことかげさん» 夢主ちゃんがぎゅっとされてるところを偶然見かけてしまって、見てるのがバレて夏油くんに(この子は私のだよ)って感じで独占欲?剥き出しにされて、ひぇってなるモブになりたいです(え←) (2022年10月11日 9時) (レス) id: 160792ee1b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:すみっことかげ | 作成日時:2022年7月28日 16時