11日目 ページ11
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その日も約束通り、23時。
ドアを開けると大きな枕を持った夏油が立っていた。
「なぁに、それ」
『特製の、ハーブピローだよ』
自信作、と言って差し出された枕をぎゅうっと抱えてみた。
ほのかに香るこれは…
「私知ってる、ラベンダーだよね」
『正解、よくわかったね』
早速試してみようよ。そう言った夏油はAの細腕を優しく引きながら部屋奥まで歩き、ベッドに枕を置いた。
『横になってみてくれるかい?』
「えっ、いま?!」
『うん、高さとか確認したいから』
「あ、うん…わかった」
にこりと微笑んだ顔からは早く早くと圧を感じる。
キシ、と音を立ててAがベッドに乗り上げ、ゆっくりと枕に頭を預ける。
『…どうだい?』
「……うん、いい香りするよ」
『そう、よかった』
Aがぼんやりと天井を眺めていると視界の端でのそりと動いた影。
次の瞬間、真っ暗になる世界にAは小さく悲鳴をあげた。
「なっ、なに」
『………』
「夏油く、」
『大丈夫だよ』
「な、に」
Aの目元を覆うように大きな手のひらで視界を遮った夏油はゆっくり顔を近づけた。
『ほら、ゆっくり呼吸して』
「……ッッ」
鼓膜を震わすほどの距離で落とされた艶っぽい声にAの身体がぎゅうっと強ばる。
『そんなに固くならないで、身体の力を抜いてごらん』
「だ、って…いきなり」
『怖いことはしないよ』
吐息も感じる囁き声にAの心臓はどくどくと大きな音を立てる。パジャマの裾をぎゅうっと握りながら、夏油の言葉に従うようにゆっくり、息を吸った。
(ゆっくり、……吸う)
視覚を奪われたせいで他の感覚が研ぎ澄まされる。
よりはっきりと感じるラベンダーの香りが鼻腔を通り脳を染め上げ、全身に巡っていく。
そして香りの中に微かに交じる夏油本人の香りにも気づいてしまった。緊張のあまり息が詰まって、胸が苦しい。
『うん、効果はあるようだね。まだマッサージをしていないのに手が温かくなってきてる』
「あ、……うん」
夏油の香りにどきどきしてしまった、なんて
(……バレちゃ、だめ)
Aは両手を胸の上できゅ、と組んだ。
その様子を夏油も嬉しそうに見下ろしていた。
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すみっことかげ(プロフ) - ココナッツさん» 表情は、意識しすぎるあまり同じ顔になりながら書いていることに最近気づきました。笑 更新を楽しみにしてくれてる人がいることが励みです♡続編も頑張ります〜! (2022年10月19日 19時) (レス) id: 836ec41816 (このIDを非表示/違反報告)
ココナッツ(プロフ) - すみっことかげさん» わわわっお返事頂いてるの気付くの遅れてしまったぁぁ…そして続きをありがとうございます!!夏油さんの表情の変化←すみっことかげ様の言葉遣いが上手すぎていつも惹き込まれてます笑 そうしましょう(うん?) (2022年10月19日 17時) (レス) @page49 id: a1f85287cc (このIDを非表示/違反報告)
すみっことかげ(プロフ) - ココナッツさん» 秒レス失礼します!進行形で書いてます。笑 残された夏油くんは今何を思うのか…。わしらモブも木の陰から見守りやしょうぜ(え) (2022年10月18日 12時) (レス) @page48 id: 836ec41816 (このIDを非表示/違反報告)
ココナッツ(プロフ) - さ…最終話……??はぅ…寂しい気持ちがありますけど最後まで夏油さんと夢主ちゃんの行く末を見守らせていただきます…!!!(どこから目線…すみません🙇🏻) (2022年10月18日 12時) (レス) @page48 id: 160792ee1b (このIDを非表示/違反報告)
ココナッツ(プロフ) - すみっことかげさん» 夢主ちゃんがぎゅっとされてるところを偶然見かけてしまって、見てるのがバレて夏油くんに(この子は私のだよ)って感じで独占欲?剥き出しにされて、ひぇってなるモブになりたいです(え←) (2022年10月11日 9時) (レス) id: 160792ee1b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:すみっことかげ | 作成日時:2022年7月28日 16時