真意に ページ9
喉が絞まるのか苦しそうに呻き声を上げたAに、少佐は息切れながらも聞く。
場は静まり返り、聞こえるのは二人の息遣いだけ。
やがてAは両手をだらん、と地につけて目を閉じた。
「……"まいった"。負けだ」
「ハハッ……よく言うよ」
大歓声が彼らを包んだ。
木刀を首から離して傷がないかを確認した少佐はAに手を差し伸べる。
その手を取って立ち上がり、服についた埃を払う。ぐるりと周囲を見渡せば、見慣れた顔が遠くに見えた。
その主はAと目が合うと、笑みを零して踵を返した。
改めて少佐に向き合い、互いのボロボロさに思わず吹き出す。
「ハハッ……アハハハッ！！」
「ククッ、ハッ……ハハハ！！」
ひとしきり笑った後、二人は周囲の兵士達に場所を借りた礼をして訓練場を去った。
「わ、わらった、はじめて……」
「綺麗だったな、男だけど」
「今度稽古頼んでみようかな」
「えっ俺も行く」
「暗殺部隊は行っとけ」
これがきっかけで彼に対する周囲の評価が変化し始めたなど、二人は知る由もなかった。
「すまんかった、ボロボロにさせてもうて」
「軍服なんていくらでもある、怪我はほとんどしてねえし気にすんな」
楽しかったし、と少佐はケラケラ笑った。
そして、何かを思い出したかのように真剣な表情に戻った。
「あれから毎日ちゃんと目薬やってるみたいでさ。昨日"近くでだけど嫁さんの顔がはっきり見えた"って手紙が来たんだ。……お前には、本当に感謝してるんだ」
「あぁ、治り始めたんか。そら良かったわ」
伏し目がちに笑ったAに、少佐は歩みを止める。
「なあ、A」
「……なんや急に」
またあの時と同じ。二人しかいない廊下に声が響く。
まるで、二人以外の時が止まったように。
「なんで、
「なんでって……レーデさんに引き抜かれたって言わんかったか？」
「違う」
「は、」
Aは"何を言っているんだ"と言わんばかりの視線を少佐に向けた。
アバルト・レーデに引き抜かれた、それは事実に変わりないと言うのに。
「我々国はデライトと共に再建が始まった。別にアバルトも『断ったら殺す』なんて言わないはずだ。我々国にいようと思えばいられたはずだ。なのに、なぜ」
「うるさい」
決して大きくはないその声は良く響いた。
少佐はハッとしてAを見る。その瞳には光がなく、死んでいた。
だが、真意が別にあることは確かだった。
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雲英(プロフ) - ロクロさん» 勉学は苦手ですが、表現や言葉選びなどを褒めていただけるのは本当に嬉しいです。ありがとうございますXD (2022年1月30日 16時) (
レス) id: 18a835abc9 (このIDを非表示/違反報告)
ロクロ - おもしろいです。見させてもらってます。落ち着いた表現や言葉の選び方なので主さんの頭の良さが伺える…これからも頑張ってください、応援しています。 (2022年1月27日 18時) (レス) @page10 id: 65d7101284 (このIDを非表示/違反報告)
雲英(プロフ) - 脅威のセラフ@wrwrdファンさん» 前作からありがとうございます、そう言っていただけて嬉しい限りです:D 遅くなってしまいましたが受験頑張ってください、応援しています。 (2022年1月18日 22時) (レス) id: 18a835abc9 (このIDを非表示/違反報告)
雲英(プロフ) - きなこんこんさん» ありがとうございます、そのお気持ちが嬉しいですし励みになります:) (2022年1月18日 21時) (レス) @page7 id: 18a835abc9 (このIDを非表示/違反報告)
脅威のセラフ@wrwrdファン(プロフ) - キャー！妹の方です！ファンです！受験が終わったら馬鹿姉貴にも紹介します！大好きです！ああもう！ホントに大好きです!!!!!前作も勿論読破させていただきました！これからも応援しています！頑張ってください！ (2021年12月12日 16時) (レス) @page5 id: 602d714d2e (このIDを非表示/違反報告)
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