準備は出来た ページ33
「……じゃあ、Aさん。俺達もこれで」
「あぁ。ここ数日こき使ってすまんかったな。向こうでゆっくり休んでくれや」
「お気遣いありがとうございます。少しでしたが一緒に働けて嬉しかったです」
「オレ、この国が大好きなんで。何があってもまた戻ってきますから」
「俺達ちゃんと信じてますよ。また、この国で暮らせることを」
「……僕らもそう願っとるよ。その為に、頑張るからな」
最後のボートをそっと押せば、流れに沿って進み始める。
見えなくなるまで作業員達はAとアバルトに手を振り続けた。
二人もそれに応えるように、ずっと手を振り続けていた。
外に出れば、それは本当に国の中なのかと疑うほどの静けさがA達を襲う。
ゆっくりとAが歩き始めれば、その後を追うようにコツコツ、と軍靴の音が響いた。
数日前もこんなだったな、とAは小さく笑みを零す。
だが、表情と思考は逆のことを考えていた。
「……レーデさん」
「なんだ」
「お願いがあるんやけど」
アバルトより数歩先を歩くAの横顔に夕日が射す。
そのせいで表情はよく見えないが、どこか切羽詰まったような強張った声色だった。
「俺を、最前線に出してくれ」
カツンッ、と足音が止まる。
Aも足を止め、アバルトを振り返った。
夕日に照らされた髪はきらきらと輝き、その暗い暗い瞳とは対照的だった。
アバルトはAから目を逸らさず、小さく息を吐いて言葉を綴る。
「……それで、お前は満足なのか」
「は、」
「それで、お前の復讐は果たせるのか」
一旦は言葉を詰まらせたAだが、静かに首を縦に振った。
アバルトはフッと笑うとコートのポケットに手を入れた。
「前線に出ることは構わない。……だが条件が一つある」
「なんでもやる」
「……少佐の隊と一緒に行動し、前線の指揮をしろ。後ろの指揮は俺が行う」
Aは驚きと共に拍子抜けした。
てっきりもっと無理難題を言われると思っていた。
だが、実際はAの予想内のことで。
「あぁ、勿論やる」
「決まりだな。明け方、少佐の隊に合流できるようにしておけ」
「……ああ」
Aは頷くと、再び城へと歩き始めた。
二つの足音が閑静な国に響く。
その足取りは重く、Aとアバルト、それぞれの決意の表れのようだった。
これにて、準備は出来た。
駒も揃った。
舞台も整った。
あとは、開始の時刻になるのを待つばかり。
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雲英(プロフ) - ロクロさん» 勉学は苦手ですが、表現や言葉選びなどを褒めていただけるのは本当に嬉しいです。ありがとうございますXD (2022年1月30日 16時) (
レス) id: 18a835abc9 (このIDを非表示/違反報告)
ロクロ - おもしろいです。見させてもらってます。落ち着いた表現や言葉の選び方なので主さんの頭の良さが伺える…これからも頑張ってください、応援しています。 (2022年1月27日 18時) (レス) @page10 id: 65d7101284 (このIDを非表示/違反報告)
雲英(プロフ) - 脅威のセラフ@wrwrdファンさん» 前作からありがとうございます、そう言っていただけて嬉しい限りです:D 遅くなってしまいましたが受験頑張ってください、応援しています。 (2022年1月18日 22時) (レス) id: 18a835abc9 (このIDを非表示/違反報告)
雲英(プロフ) - きなこんこんさん» ありがとうございます、そのお気持ちが嬉しいですし励みになります:) (2022年1月18日 21時) (レス) @page7 id: 18a835abc9 (このIDを非表示/違反報告)
脅威のセラフ@wrwrdファン(プロフ) - キャー！妹の方です！ファンです！受験が終わったら馬鹿姉貴にも紹介します！大好きです！ああもう！ホントに大好きです!!!!!前作も勿論読破させていただきました！これからも応援しています！頑張ってください！ (2021年12月12日 16時) (レス) @page5 id: 602d714d2e (このIDを非表示/違反報告)
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