狂信と完成 ページ31
何かを言いたげな二人だったが、それは息と共にゴクリ、と体の中へ消えた。
代わりに小さく息を吐くと微笑みかける。
「えぇ。あなたは、何も間違っていない」
「だって、俺達が憧れた人なんだ。俺達を、ここまで導いてくれた恩師なんだ」
「……ん」
二人は座り込んでいるAに視線を合わせるように膝をつく。
そしてAの頬に手を添えると、Aは擽ったそうに身を捩った。
そんな姿さえ、二人には愛おしい。
俺達の。
私達の。
愛する人が間違いを犯すわけがないだろ？
愛する人が間違いなど犯すわけがないでしょう？
「……お、い」
「っは、ご、ごめんなさい無礼を」
「気にしなくていい」
低く掠れた声に二人はハッとしてAから離れる。
焦ったように誤れば、Aは気にしていない、と少し恥ずかしそうに目を逸らした。
だがすぐに口許を白衣で拭って見慣れた笑みを作った。
「あともう少し、がんばろか」
「はい」
作業員達の声が響き、再びボートは形を成していく。
Aはこの時間が好きだった。
自分の頭の中に描いた物が実際に形へと現れる。
そして人の役に立つ姿を見て、Aは言い知れぬ感情に襲われるのだ。
「で、きた……できましたよ、A様！」
「かっこいいですね！」
「これで、人の命が」
簡易的ではあるがそれにしては頑丈そうなボートが出来上がった。
機能性重視でありながらもシンプルなデザインは"かっこいい"という言葉が似合っていた。
Aは額の汗を拭い、これから先のことを悩んだ。
「テストをしたいんやけど、今何時？」
「午後五時です」
「……危ないな。明日にしよか」
「承知しました。このボートは？」
「ここに置いといてもええ？」
「はい、材質的にも恐らく腐ることなどはないでしょう」
Aは頷いて、設計図や道具などを抱えた。
それは帰る合図。外へ出た全員は、大きく深呼吸をした。
作業員達と別れたAと二人の軍人は城へと歩き出す。
「……っはは、やっぱ外の空気はええなぁ」
「この空気が、一番好きなんです」
「穏やかで、なにもない。俺達が願った空気だ」
Aはその言葉にほんの少し口角を下げた。
だがそれは後ろにいる二人には気づかれない。
なんて、残酷なのだろう。
その、願ったものを。
手に入れた穏やかさも。
己の手で壊そうとしているのだから。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 375人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雲英(プロフ) - ロクロさん» 勉学は苦手ですが、表現や言葉選びなどを褒めていただけるのは本当に嬉しいです。ありがとうございますXD (2022年1月30日 16時) (
レス) id: 18a835abc9 (このIDを非表示/違反報告)
ロクロ - おもしろいです。見させてもらってます。落ち着いた表現や言葉の選び方なので主さんの頭の良さが伺える…これからも頑張ってください、応援しています。 (2022年1月27日 18時) (レス) @page10 id: 65d7101284 (このIDを非表示/違反報告)
雲英(プロフ) - 脅威のセラフ@wrwrdファンさん» 前作からありがとうございます、そう言っていただけて嬉しい限りです:D 遅くなってしまいましたが受験頑張ってください、応援しています。 (2022年1月18日 22時) (レス) id: 18a835abc9 (このIDを非表示/違反報告)
雲英(プロフ) - きなこんこんさん» ありがとうございます、そのお気持ちが嬉しいですし励みになります:) (2022年1月18日 21時) (レス) @page7 id: 18a835abc9 (このIDを非表示/違反報告)
脅威のセラフ@wrwrdファン(プロフ) - キャー！妹の方です！ファンです！受験が終わったら馬鹿姉貴にも紹介します！大好きです！ああもう！ホントに大好きです!!!!!前作も勿論読破させていただきました！これからも応援しています！頑張ってください！ (2021年12月12日 16時) (レス) @page5 id: 602d714d2e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
