憧れた人 ページ29
「今回の選抜、Aさんが直々に声をかけてくださったのをよく覚えています」
「あの時は嬉しかったなぁ……まさか俺達が、ってずっと舞い上がってたんですよ」
そう、今回このメンバーを選んだのはA本人である。
研究室や訓練場を見て、連れて行きたい人間にAは声をかけた。
それがこの二人の軍人であった。
「俺達、Aさんに憧れて軍に入ったんです」
「は、え……」
「あなたが軍に入ってアバルト様が総統になってからというもの、私達の生活はみるみる豊かになっていきました。私とコイツは幼馴染で貧困の出でした。どうしてか貧富の差というのは縮まらないものだと、私達は幼いながらに理解していました。そして、生まれた自分を呪い、生んだ親を憎んだ」
「俺達は永遠にこうやって死んでいくんだと思ってた。そんな時、戦争が起きて俺達の国は変わった。それでも俺達が貧しいことに変わりなどない。そんな時だったんです、Aさんが来たのは」
気づけば全員が手を止めて二人の話を聞いていた。
当事者であるAは未だ唖然とした表情で聞いている。
「勿論すぐになんて変わらない。でも、確実に時間をかけて俺達の生活は変わっていった。飢えに苦しむこともなく、薬も安価で貰える。働き口も増えて金も稼げるようになって……家族が暮らせる、まともな家を手に入れた」
「それは夢のようなことだったのです。所謂、普通の家庭。それが私達に訪れる日がくるなど、当時の私達は思ってもいませんでした。そして、その難しさを大人になった今知りました……貧困をなくすというのは言葉ほど簡単ではないと」
「政府にも政府の事情がある。軍に所属し、色々な人と関わってそれを知った。だからこそあなたに俺達は感謝してるんですよ、Aさん。それは今も変わらない」
若い二人の軍人は熱い視線をAに送る。
それは、向けられたことのない、尊敬の眼差し。
否、Aが気づかなかっただけの周囲からの敬愛。
「だから私達はアンテリラ国軍に入ったのです。あなたと仕事がしたくて……私達を救ってくれたあなたに恩返しがしたくて。少しでも、役に立ちたくて」
「俺達にとってはこの仕事も、人を救うための立派なモンです。かつて、俺達を救ってくれたあの時のように。……あなたが国民を救おうとしているように、俺達も国民を救う手助けをしたい。それが、あなたへの恩返しにもなるだろう？」
そこまで言うと二人は照れ臭そうに笑った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 375人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雲英(プロフ) - ロクロさん» 勉学は苦手ですが、表現や言葉選びなどを褒めていただけるのは本当に嬉しいです。ありがとうございますXD (2022年1月30日 16時) (
レス) id: 18a835abc9 (このIDを非表示/違反報告)
ロクロ - おもしろいです。見させてもらってます。落ち着いた表現や言葉の選び方なので主さんの頭の良さが伺える…これからも頑張ってください、応援しています。 (2022年1月27日 18時) (レス) @page10 id: 65d7101284 (このIDを非表示/違反報告)
雲英(プロフ) - 脅威のセラフ@wrwrdファンさん» 前作からありがとうございます、そう言っていただけて嬉しい限りです:D 遅くなってしまいましたが受験頑張ってください、応援しています。 (2022年1月18日 22時) (レス) id: 18a835abc9 (このIDを非表示/違反報告)
雲英(プロフ) - きなこんこんさん» ありがとうございます、そのお気持ちが嬉しいですし励みになります:) (2022年1月18日 21時) (レス) @page7 id: 18a835abc9 (このIDを非表示/違反報告)
脅威のセラフ@wrwrdファン(プロフ) - キャー！妹の方です！ファンです！受験が終わったら馬鹿姉貴にも紹介します！大好きです！ああもう！ホントに大好きです!!!!!前作も勿論読破させていただきました！これからも応援しています！頑張ってください！ (2021年12月12日 16時) (レス) @page5 id: 602d714d2e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
