見間違いと執着 ページ23
笑いを含んだ声と共に下腹部に添えられた手に、Aの意識は引き戻された。
「あ……？」
「おーい、A。俺がわかるか？」
「……ジェイ」
細く呟かれた声は彼の耳にだけ届き、その顔から笑みが消える。
だがそれも束の間。Aを立たせて両頬を掴み、無理矢理目を合わせる。
「俺を見ろ、A。俺は誰だ？」
「……あ、しょ、うさ」
「そう、お前の親友の少佐だよ。……大丈夫そうだな」
揺れ動いていた焦点の合わない瞳は少佐へと向けられ、今度ははっきりと彼の名を呼んだ。
己の名を呼ばれた少佐は満足そうに笑って手を離す。
Aは頭を振って周囲を見渡し、自分に何が起こったのかを理解したのか手で顔を覆い、その場にしゃがみこんだ。
「あー……ごめ、ん」
「ははっ、いいんだ気にするな」
少佐は笑いながら総統室へと入り、未だに目を丸くしていたアバルトに持っていた紙の束を投げつけた。
「確認頼んだ。あと、そろそろ限界だぞあれ。少しくらい休ませてやれ。有能なのは俺達が一番わかってる。だからこそ、大切にしてやんねえといけないだろ」
「それは、悪かったと思うが」
「はいはい、じゃあ一日休暇な」
「……そうだな、悪かった。今日明日くらいは休め」
アバルトは近頃の忙しさや徹夜の連続、頼りっぱなしだったことを思い出し、しゃがんでいる彼に休暇を言い渡した。
それを聞いて踵を返した少佐は悪い笑みを浮かべて彼を見る。
だがその目は笑っておらず、これ以上口を出すようなら危害が加えられかねない。
最恐の男の殺気に流石のアバルトも冷や汗を垂らす。
リメルに至っては飛び上がって姿勢を正していた。
「休暇だってさ、まずは寝ろ。流石に限界だ」
「……あぁ」
立ち上がったAの顔色は悪く、一度限界を超えたせいか明らかに疲れが滲み出ていた。
少佐は何も言わずAの腕を己の肩に回して体重を預けさせた。
「えっ」
「また倒れられても困る。貸し一つ、だな」
「ははっ、勘弁してや」
Aも嫌がるようなそぶりは見せず、素直にその優しさに甘える。
二人で廊下を歩いていく姿をリメルとアバルトは眺めていた。
「悪かったな、怖がらせて」
「いえ、大丈夫です。それよりもあんな少佐は初めて見ました」
「あれか？」
あれは、お前と同じだよ。
「え？」
「なんでもない。……さて、俺達も一旦休むぞ」
お前と同じ、Aという人間への執着心さ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 375人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雲英(プロフ) - ロクロさん» 勉学は苦手ですが、表現や言葉選びなどを褒めていただけるのは本当に嬉しいです。ありがとうございますXD (2022年1月30日 16時) (
レス) id: 18a835abc9 (このIDを非表示/違反報告)
ロクロ - おもしろいです。見させてもらってます。落ち着いた表現や言葉の選び方なので主さんの頭の良さが伺える…これからも頑張ってください、応援しています。 (2022年1月27日 18時) (レス) @page10 id: 65d7101284 (このIDを非表示/違反報告)
雲英(プロフ) - 脅威のセラフ@wrwrdファンさん» 前作からありがとうございます、そう言っていただけて嬉しい限りです:D 遅くなってしまいましたが受験頑張ってください、応援しています。 (2022年1月18日 22時) (レス) id: 18a835abc9 (このIDを非表示/違反報告)
雲英(プロフ) - きなこんこんさん» ありがとうございます、そのお気持ちが嬉しいですし励みになります:) (2022年1月18日 21時) (レス) @page7 id: 18a835abc9 (このIDを非表示/違反報告)
脅威のセラフ@wrwrdファン(プロフ) - キャー！妹の方です！ファンです！受験が終わったら馬鹿姉貴にも紹介します！大好きです！ああもう！ホントに大好きです!!!!!前作も勿論読破させていただきました！これからも応援しています！頑張ってください！ (2021年12月12日 16時) (レス) @page5 id: 602d714d2e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
